高金利の通貨を抱えていると、どこかで「そろそろ売った方がいいのか、それともこのまま持ち続けるのか」という問いにぶつかります。ランド円やペソ円なら、この問いにはひとまずの答えがあります。ここ10年で見れば、どちらも下げた水準から上げ直す局面が何度かありました。下がったところは持ちこたえて、戻ってきたところで手を離す、という待ち方です。

リラ円では、その答えが使えません。下げた分を戻す局面が、そもそも来ないからです。

この記事では、リラ円で売り時を決めようとしたときに、何が手がかりになって、何がならないのかを順に確かめます。結論を先に置くと、決められることは二つしか残りません。

どこまで下がるのか、には答えがない

先に、一番よく調べられている問いから片づけます。どこまで下がるのか。

答えから言うと、決まっていません。変動相場の通貨には、値段を下で受け止める約束がないからです。この点と、それでも見当をつけるための材料は、ランド円の方で整理しました(ランド円はどこまで下がるのか)。仕組みとしては、リラでも変わりません。

違うのは、その先です。ランド円には下げたあとに戻す局面がありました。リラ円にはそれがありません。だから「どこまで下がるのか」を調べても、待っていれば戻る水準が出てくるわけではない。問いは、下がり続ける間に何を待つのか、という形に変わります。

0円になるのか

一緒に調べられることの多い、もう一つの問いです。

リラでは、これに近いことが一度起きています。2005年、トルコは通貨の単位を切り替えました。1,000,000旧リラが1新リラになり、ゼロが6つ消えています。

ただし、その日に持っていた人の資産は減っていません。変わったのは数え方で、値段も同じ比率で書き直されたからです。切り替えが来るのは価値が失われる瞬間ではなく、失われ終わったあとになります(何が起きたのかは通貨が「消える」とは、何が起きることなのか?)。

では0円になるのかというと、その形で終わることは考えにくい。桁が扱いにくくなれば、その前に単位が切り替えられるからです。心配する場所は、終わりの一日ではなく、途中の方にあります。

「戻ったら売る」が、リラ円では出口にならない

リラ円は、2007年には1リラ=99円台でした。今は3円台です。約19年のうちに、対円では9割以上の価値が失われました

ランド円と並べてみます。ランド円は2020年に5円台後半まで沈みましたが、2026年8月は9円台後半です。ペソ円も2020年3月に4.2円をつけたあと、今は9円台前半にいます。あのとき手放さずに持っていた人には、戻ってきた局面がありました

ただし、この二つも「いつ買っても報われた」通貨ではありません。ランド円は2000年代後半には15〜17円前後で、その水準で買った人は、今も戻りを待っている計算になります。ペソ円も2016年の時点で5〜9円台を行き来していたので、高いところで買えば同じことが起きます。戻ってきたのは、あくまで直近の下げに対してです。

差が出るのは、その「直近の下げに対する戻り」があるかどうかです。ランド円は2016年に6円台前半、2020年に5円台後半と、そのつど当時の史上最安値をつけながら、そのたびに戻してきました。階段を一段ずつ下りるような下げ方です。リラ円には、その一段ごとの戻りがありません。下げた水準が、そのまま次の上限になります。

持てば必ず損をする、という意味ではありません。ただ、値が戻るのを待つという出口は、この19年間、用意されてこなかった、ということです。売り時を「戻ったところ」に置くと、その日が来ないまま時間だけが過ぎます。

下がっているのは事故ではなく、運営されている

もう一つ、よくある待ち方があります。急落が落ち着くのを待つ、という構えです。これも、リラでは前提が違います。

トルコの中央銀行は為替市場に介入して、急落は防ぎながら、ゆっくりとした減価は止めない運営を続けています。対ドルでは7月に47.2リラをつけ、8月21日は48.07リラ。安値を切り下げる動きが止まりません。

この夏の推移を、当サイトの週次レポートから並べてみます。7月10日の週が46.7〜46.9リラ、7月24日の週が47.3リラ前後、8月14日の週が47.9リラ前後、そして8月21日が48.07リラ。戻す週がないまま、少しずつ水準が切り下がっています。この7週で、リラが前の週より強くなった回はありません。

事故なら、原因が消えれば止まります。運営は、方針が変わるまで続きます。「そのうち落ち着く」という待ち方も、リラでは根拠が薄くなります。落ち着いている状態が、すでに今の下がり方だからです。

金利が下がっても、戻らなかった2年

三つ目の待ち方が、金利の正常化を待つ、というものです。ここが今回、一番確かめておきたいところです。

トルコの政策金利は、2024年3月に50%へ達し、そこから9か月間、据え置かれました。2025年の半ばに利下げが再開され、2026年1月には37%になっています。以降は5会合続けての据え置きで、直近の決定は9月10日でした。

筋書きとしては、利下げは物価が落ち着いてきたしるしで、通貨には追い風のはずです。ところが同じ2年の間に、リラは対ドルの最安値を更新し続けました。2018年や2021年のような段差があったわけでもなく、静かに水準を切り下げています。

正常化は、通貨を戻す力にはなっていません。動いたのは受け取りの原資の方です。日本との金利差がスワップを生む以上、50%のときと37%のときでは、原資の厚みが違います。待っている間に減ったのは、待つことで得られるはずのものでした。

スワップは「待つ理由」になるか

名目の37%に対して、8月のインフレ率は31.51%です。なぜリラにこれほど高いスワップが付くのかは、金利37%の正体を扱った記事で解きほぐしました。ここでは繰り返しません。

売り時という問いに関して確かめておきたいのは、一点だけです。受け取りが続くことは、値が戻ることを約束しません。待っている間に積み上がるのは受け取りで、戻るかどうかが決まっていないのは値の方です。この二つは別々に動きます。

価格でも金利でもないなら、何を見るのか

値が手がかりにならず、金利も戻りを連れてこなかった。それなら見る先は、運営の方針が変わる日になります。トルコ中央銀行は9月10日の会合で据え置きを決めました。次の会合は10月22日です。

正常化のしるしとされるものは、金利以外にもあります。為替保護預金(KKM)は2025年に新規の受付が止まり、残高もほぼ解消しました。緊急時の仕組みを外せた、という意味では前進です。一方で、2026年のインフレは、16%前後としていた見通しが24%程度まで引き上げられました。数字が目標に近づいたのか、目標の方が動いたのかは、分けて読んでおけます。

そしてもう一つ。方針が変わることは、持っている人にとって一方的な良い知らせではありません。利下げに転じれば通貨の重しは軽くなりますが、受け取りの原資はその分だけ細ります。同じニュースが、受け取りとレートに逆向きに届くという形です。

買う前に決められること

ここまでを裏返すと、リラ円で自分の側から決められるのは二つだけです。どれだけの期間持つかと、どれだけの量を持つか

期間は、戻りを当てにできない以上、「何年で見切るか」という形でしか置けません。量は、耐えられる下落幅と裏表です。同じ3倍でも、通貨が違えば下落幅の意味が変わります(レバレッジとロスカットの関係)。

待ち方ランド円で起きたことリラ円で起きたこと
値が戻るのを待つ2020年の5円台後半から9円台後半へ戻った局面がある(2000年代後半の15〜17円には戻っていない)2007年の99円台から3円台。戻った局面が見当たらない
急落が落ち着くのを待つ原因が消えれば下げは止まってきた減価は運営なので、方針が変わるまで続く
金利の正常化を待つ政策金利7.00%で、物価との差は開いている50%から37%になっても最安値の更新は続いた
※水準・金利はいずれも2026年8月時点のものです。

決めないまま持ち続けている場合

ここまでは、建てる前に置いておく話でした。すでにリラ円を持っていて、そのどちらも置かないまま来た場合は、どうなるのか。

後から置けないのは、売り時の方です。値が戻りを教えてくれない以上、「戻ったら売る」という条件は、今日書いても来月書いても同じように空いたままになります。

期間と量の方は、今からでも置けます。量は減らせて、一部を決済すればその分だけ耐えられる下落幅が広がります。期間も、買った日ではなく今日を起点にして、何年で見切るかを書き直せます。

持ち続けると決めること自体は、選択の一つです。決めていない状態と、決めたうえで持ち続けている状態は、外から見れば同じ建玉ですが、中身が違います。違いは、終わりの条件を自分が書いてあるかどうかです。

自分がどちらの状態にいるのかは、期間と量が書いてあるかを見れば確かめられます。

売り時は、買う前にしか決められない

リラ円で「いつ売るか」を後から決めようとすると、手がかりが足りません。値は戻りを教えてくれず、金利は下がっても通貨を戻しませんでした。残っているのは、建てる前に決められることだけです。

ランド円には、今の水準で同じものを新しく買うかどうかを自分に聞くという決め方があります。リラ円でも同じ問いは立てられますが、答えの根拠になる「戻り」が薄い分、決め手は自分が置いた期間と量に寄ります。

売るべきかどうかを、ここで決めることはできません。ただ、決められるものが二つしかないと分かっていれば、その二つを先に書き出しておけます。何年で見切るのか、どれだけの量で持つのか。それを書いていないまま持っている場合、今そこにあるのは判断ではなく、値が動くのを見ている時間です。