スワップ運用の入門記事を読むと、たいてい最後は「レバレッジは3倍以下に」で締めくくられています。ですが、その「3倍」が具体的に何を約束してくれるのかは、あまり語られません。3倍なら安全なのか? そもそも安全とは、何がどうなっても大丈夫という意味なのか――。
この問いに答えるには、「何倍で持つか」という数字を、別の単位に置き換える必要があります。この記事でお渡しするのは、レバレッジを「何円の下落に耐えられるか」へ翻訳する物差しです。翻訳できれば、自分の建玉が過去の暴落を生き延びられたかどうかを、自分の手で確かめられるようになります。
先にお断りしておくと、この記事は「何倍にすべき」を決めつけるものではありません。相場に絶対はなく、適切なレバレッジは資金や目的によっても変わります。ここで渡すのはあくまで判断の材料――物差しです。実践の3本柱、①二層構造で理解する、②巻き戻しで何が起きるかを知る、そして③生き残るレバレッジで持つ、の最後の一本にあたります。
まず、強制ロスカットとは何か
レバレッジとは、手元の資金より大きな金額を動かせる仕組みです。少ない元手で大きなスワップを狙える一方、その裏側には、含み損が一定まで膨らむと、自分の意思とは関係なく建玉が決済される仕組みがあります。これが強制ロスカットです(スワップ運用の落とし穴としてスワップポイントとは何かでも触れました)。
判定は「証拠金維持率」で行われ、どの水準で発動するかは業者によって異なります。多くの業者では、維持率が一定の割合を割り込むと自動的に決済される、という設計になっています。国内のFXで個人が使えるレバレッジの上限や、具体的な維持率の水準は、業者や時点によって変わるため、ご利用の口座の条件を必ず確認してください。
強制ロスカットが残酷なのは、損が確定すること、それ自体ではありません。本当にこたえるのは、次の三つが同時に来ることです。一つ目に、底値圏で機械的に決済されること。二つ目に、その後にレートが戻っても、もう乗れないこと。三つ目に、それまで毎日コツコツ積み上げてきたスワップの受け取りも、そこで終わること。下げの一番きついところで振り落とされ、回復の果実も取り逃がす――これが強制ロスカットの実像です。
核心①:レバレッジは「何円の下落に耐えられるか」に翻訳する
ここが、この記事の芯です。
「何倍で持っているか」は、あくまで自分の口座の中の話です。ところが、相場が突きつけてくるのは、常に「レートが何円下げたか」という下落幅のほうです。単位の違うものを見比べようとしているから、「3倍は安全か」という問いに答えが出ないのです。そこで、レバレッジを下落幅に翻訳します。
考え方はシンプルです。いま実際に何倍で持っているか、を実効レバレッジと呼びます(建玉の金額を口座の資金で割ったものです。設定上の上限ではなく、実態の数字です)。この実効レバレッジがおよそ n 倍なら、レートがざっと「1 ÷ n」だけ下げたところで、資金は尽きます。3倍なら3分の1、10倍なら10分の1です。強制ロスカットは、その少し手前で発動します。
言い換えると、レバレッジを上げるほど、耐えられる下落幅は反比例で細くなります。2倍から3倍へ上げるのは、「1.5倍リスクが増える」という穏やかな話ではありません。耐えられる幅そのものが、半分の側へ近づいていくということです。表にすると、こうなります。
| 実効レバレッジ | 資金が尽きるおおよその下落幅 | ランド円(約9.8円)なら | ペソ円(約9.2円)なら | リラ円(約3.4円)なら |
|---|---|---|---|---|
| 1倍 | 約100% | 約9.8円 | 約9.2円 | 約3.4円 |
| 2倍 | 約50% | 約4.9円 | 約4.6円 | 約1.7円 |
| 3倍 | 約33% | 約3.2円 | 約3.0円 | 約1.1円 |
| 5倍 | 約20% | 約2.0円 | 約1.8円 | 約0.7円 |
| 10倍 | 約10% | 約1.0円 | 約0.9円 | 約0.3円 |
この表から見えてくるのは、同じ「3倍」でも、通貨が違えば意味が違うということです。下落幅を%で見れば、ランド円の3倍もリラ円の3倍も同じ約33%です。ですが、その33%が「どれくらいの頻度で・どれくらいの速さで起きるか」は、通貨ごとにまるで違います。ここが、次の核心②につながります。3通貨の値動きの荒さの違いは高金利通貨を徹底比較にまとめてあります。
核心②:その下落幅は、過去に何度起きているか
翻訳した「耐えられる下落幅」は、それ単体では、まだ意味を持ちません。実際に起きた下落と並べて、はじめて意味が立ち上がります。
| 通貨 | 局面 | 実際に起きた下落の規模(概算) |
|---|---|---|
| ランド円 | 2008年/2015〜16年/2020年 | 数か月で水準がほぼ半分になった局面も |
| ペソ | 1994年 テキーラ危機 | 一夜にして対ドルで5割超の暴落 |
| リラ円 | 2018年/2021年ほか | 短期間で急落。長期では対円で価値の9割超を喪失 |
ランド円の暴落の実例はランド暴落の歴史に、ペソの一夜の崩落はテキーラ危機に、リラの長い下落はトルコリラ暴落の歴史にまとめています。
さて、表①と表②を並べると、予想を一切せずに、一つのことが言えます。例えば実効3倍で耐えられる下落幅はおよそ33%ですが、表②が示すとおり、過去の暴落では5割規模の下落が現実に起きています。つまり、過去に実際に起きた規模の下落に耐えられないレバレッジは、その暴落がもう一度来れば退場するということです。「起きるかもしれない」ではなく、「もう何度も起きている」幅なのですから。
しかも暴落は、スワップを何年ぶんも一撃で消す非対称な動きをします。だとすれば、レバレッジを上げることは、スワップの積み上がる速度を上げているというより、積み上げが終わるまでの時間を縮めている、と見ることもできます。どのレバレッジを選ぶかは、この物差しを踏まえたうえで、それぞれが判断することです。ここで「だから何倍にせよ」と結論を出すことはしません。
核心③:ロスカットは「下がったから」ではなく「一瞬でも下がれば」起きる
ここが、実践面で最も役に立ち、他ではあまり書かれない論点です。
強制ロスカットの判定は、終値でも平均値でもなく、その瞬間の値で行われます。だから、次のような場面が怖いのです。
一つは、ヒゲです。流動性の薄い時間帯――日本時間の早朝や、年末年始、大型連休――には、一瞬だけ大きく下げて、すぐ戻る動きが起こることがあります。問題は、戻ってきても、自分の建玉はその一瞬にもう決済されていることです。もう一つは、窓(ギャップ)です。週末に大きな材料が出ると、月曜の始値が金曜の終値から大きく離れて始まります。その間のレートは存在しないので、ロスカットの水準を飛び越えて決済され、預けた資金を超える損失(追証)が生じることさえあります。
そして巻き戻しの局面では、これが連鎖します。誰かのロスカットが売りを生み、その売りが次の誰かのロスカットを呼ぶ。自分がこの連鎖に飲まれる側になるかどうかは、結局「耐えられる下落幅がどれだけあるか」で決まっています。だから備えるべきは、単なる「下落幅」ではなく、「一瞬の下落幅」です。想定より一段厚い余力が要る理由が、ここにあります。
使い方:生き残るための三つ
物差しの使い方を、三つに整理します。
一つ目は、レバレッジからではなく、下落幅から決めることです。「何倍で持つか」を決める前に、「何円下げても持ち続けられるか」を先に決める。順序が逆だと、自分が耐えられる幅は、建玉を組んだ後にしか分かりません。
二つ目は、余力を口座の中に置いておくことです。建玉を増やさずに資金だけ足しておけば、実効レバレッジは下がります。証拠金は「使い切る枠」ではなく、「暴落に耐えるための厚み」だと捉え直すと、同じ資金でも生存率が変わってきます。
三つ目は、薄い時間帯と週末は、建玉を軽くしておくことです。日付の分かっているイベント――日銀会合、FOMC、米雇用統計、各国の政策金利発表――と、流動性が細る時間帯は、事前に分かります。すべては避けられなくても、介入警戒の局面と同じく、分かっているものだけでも構えておく。それだけでも、不意打ちの度合いは変わります。
まとめ:生き残っていれば、スワップはまた積み上がる
レバレッジを上げれば、スワップは速く貯まります。ただし同時に、耐えられる下落幅は細くなります。速く貯めることと、貯め続けられることは、別の話です。この二つを取り違えると、順調に増えていた口座が、一度の暴落で終わってしまいます。
高金利通貨との付き合いで、最後に効いてくるのは、相場を当てる力ではなく、相場に残っている力です。振り落とされさえしなければ、スワップは明日からまた積み上がっていきます。二層構造で仕組みを理解し、巻き戻しで何が起きるかを知り、そして耐えられる下落幅で持つ――。この三つがそろって、はじめて「高金利通貨と長く付き合う」という土台ができあがります。次にレバレッジを決めるとき、「何倍か」ではなく「何円の下落まで一緒にいられるか」と問い直してみる。その問いの立て方こそが、生き残るための最初の一歩になるのだと思います。

