メキシコペソ円は、2008年の前半には10〜11円台にありました。2026年8月の水準は9円台前半です。

18年かけて、水準は上がっていません。その間に何度も大きく下げ、その都度水準を戻してきた結果が、現在のレートです。まず、いくら下げてきたのかを確認していきます。

いくら下げてきたのか

局面直前の水準下げた先
2008年9月〜 リーマンショック10〜11円台6円台
2012年ごろ5円台前半
2016〜2017年 米大統領選と政権の発足9円近辺(2014年後半)5円台
2020年3月 コロナ禍4.2円(過去最安値)
2024年9月9.4円(同年5月)7円割れ
2025年4月 関税の引き上げ7.5円台(同年初)6.8円
※各局面の高いところと安いところを取り出したもので、その間はレートが行き来しています。2016年前後は5〜9円台の間で動いていました。水準はいずれもおおよその目安です。2008年から2025年6月までの推移は大和ネクスト銀行の通貨ガイド、2025年の年初と安値はインヴァスト証券の相場見通しによります。2026年の水準は当サイトの週次レポート(8月)のものです。

並べてみると、5円台から6円台への下げが繰り返されています。10円台から始まった通貨が、そこまで落ちる。それが一度ではなく、何度も起きています。

この通貨がなぜ高金利で人気を集めてきたのかは、メキシコペソとは何かにまとめてあります。

「一夜で崩れる」のは、1994年の話だった

ペソの暴落として最も知られているのは、1994年のテキーラ危機です。対ドルで50%以上の下落が、ごく短期間で起きました。

ただし、当時のペソは相場の制度が違います。レートを一定の幅に収める管理相場制のもとにあり、その幅が維持できなくなった結果として、一気に水準が飛びました。今のペソは、日々の取引でレートが決まる変動相場制です。固定された幅が外れる、という形の下げは、変動相場のもとでは起こりません。テキーラ危機(1994)で扱ったのは、その別の制度のもとでの話です。

変動相場になってからの下げは、表の通り、数週間から数か月かけて進んでいます。一晩で終わるものではありません。その代わり、下げが終わるまでには時間がかかります。

下げたあと、ペソ円は戻っている

表をもう一度見ると、下げた先の隣に、次の局面の直前の水準が並んでいます。2020年3月に4.2円をつけた通貨が、2024年5月には9.4円にいます。2025年4月に6.8円まで落ちた通貨が、2026年8月には9円台前半にいます。

下げたきりになっていません。南アフリカランドと比べると、そこが違います。ランド円が2000年代後半につけていた15〜17円という水準は、今も遠いままです。下げては戻り、また下げる。そうやって、少しずつ低いところへ移ってきた通貨です(ランド暴落の歴史)。

ただし、これは過去にそうなってきたという記録であって、次も同じになるという話ではありません。戻るまでにかかった時間は局面ごとに違い、その間ずっと含み損を抱えることになります。

18年かけて、水準は上がっていない

戻ってきたと書きましたが、どこまで戻ったのかは、どこから測るかで変わります。

2020年3月の4.2円を起点にすれば、2026年8月の9.4円は倍以上です。強くなった通貨だと言えます。この見方は、メキシコペソ円のスワップポイントで、同じ資金から持てる枚数が半分以下になったこととして扱いました。

一方、2008年前半の10〜11円台を起点にすれば、9円台前半はまだそこに届いていません。18年が経っています。

同じ9.4円という数字が、起点を変えるだけで「倍になった」とも「まだ戻っていない」とも読めます。どちらかが間違っているのではなく、どちらも同じ記録から出てきます。

そしてこの水準は、ペソ側の事情だけで決まっているわけではありません。ペソ円は円との組み合わせですから、円が買われる局面では、メキシコで何も起きていなくても下がります。2008年の下げには、世界的な金融危機のもとで円が買われたことが大きく重なっています。

直近の往復には、2年3か月かかった

戻ると言っても、どのくらいの時間がかかるのか。一番新しい往復を、細かく見ておきます。

時点水準この間にあったこと
2024年5月9.4円
2024年9月7円割れ6月の大統領選への警戒、8月の円キャリーの巻き戻し
2025年 年初7.5円台
2025年4月6.8円関税の引き上げ
2025年6月7.5円近辺
2026年8月9.3〜9.4円
※2025年6月までは大和ネクスト銀行の通貨ガイド、2025年の年初と安値はインヴァスト証券の相場見通し、2026年8月は当サイトの週次レポートによります。水準はおおよその目安です。

2024年5月の9.4円から、2026年8月の9.4円まで。同じ場所に戻るのに、2年3か月かかっています。

その間に、下げの引き金は三度替わりました。選挙、巻き戻し、関税です。毎回違う材料で下げ、その都度戻しています。関税とUSMCAがペソを動かす仕組みはペソを動かす「対米リスク」で整理しました。

2年3か月という長さは、記録として押さえておけます。この期間に受け取るスワップと、抱える含み損のどちらが大きいかは、買った水準によって変わります。

この幅を、自分の枚数に当てる

表の数字は、そのままでは自分の口座の話になりません。「3割下げた」と読んでいる限り、何が起きるのかは見えないままです。

使える形に直すには、円で測ります。9.4円から7円割れまでなら、動いた幅は2円を超えます。9.4円から6.8円までなら2.6円です。この幅を、自分が持っている枚数に掛ければ、口座で動く金額が出ます。

そのうえで、その金額に耐えられる建て方になっているかを見ておきましょう。過去に実際に起きた幅で決済されてしまうなら、戻りを待つことができません。その求め方は強制ロスカットとは何かで解説しています。

「暴落するか」ではなく、どこから測るか

ペソ円が次に暴落するかどうかは、分かりません。ただ、記録から言えることはあります。

変動相場になってから、この通貨は5円台や6円台まで何度も落ちています。そのあと水準を上げた局面も、記録には残っています。1994年のような一夜の崩壊ではなく、数週間から数か月かけて下げ、年の単位で戻す。それがこの通貨の歩き方です。

だとすれば、「暴落するか」と問う前に決めておくことがあります。どこから測るか、そしてどこまで待てるか。2008年を起点にすれば、この通貨は18年戻っていない通貨です。2020年を起点にすれば、倍になった通貨です。同じ記録が、期間の切り方で別の顔になります。

なお、こうした下げが特定の国の事情と関係なく起きる仕組みについては、円キャリーの巻き戻しとは何かで扱っています。