「ランド円はどこまで下がるのか」。この記事は、そう不安、疑問に思っている方向けに書いています。

先にお伝えしておくと、予想は書きません。何円まで下がるという数字を出すことは、当サイトではしていません。当てにいく情報は、外れたときに何も残らないからです。

その代わり、手ぶらでお帰しはしません。下限を決められない理由と、見通しを立てるための三つの材料、そして予想より確かな一つの数字をお渡しします。ランド円の見通しそのものは書きません。材料を提供するところまでです。

そもそも「下限」は決められない

まず前提から確かめます。ランド円のような変動相場の通貨に、「ここで止まる」という水準はありません。値段は市場の売り買いで決まっていて、それを支える約束が存在しないからです。

固定相場であれば話は別です。中央銀行が「1ドル=いくら」という線を守ると宣言し、その水準を維持するために外貨を売ります。守るべき線がはっきりしている分、下限も見えます。ただし、守れなくなったときの落ち方は激しくなります。1994年のメキシコが、まさにそれでした(テキーラ危機(1994)を参照)。守る線がある方が安全とは限らないわけです。

ランドは変動相場の通貨です(通貨の全体像は南アフリカランドとは?にまとめています)。なので「底はいくらか」という問いには、そもそも答えが用意されていません。

材料①:インフレ格差

それでも、長期の方向について見当をつける材料はあります。一つ目が、二つの国の物価上昇率の差です。

物価が上がるということは、その通貨で買えるものが減るということです。二国を比べたとき、片方の物価上昇率が高い状態が続けば、その通貨の価値は相手国の通貨に対してじりじりと目減りしていきます。

数字で見てみます。南アフリカのインフレ率は2026年6月に5.0%で、2年ぶりの高さでした。一方、日本は同じ月の消費者物価指数(総合)が前年同月比1.7%です。この差が続く限り、長期では下方向の圧力がかかり続けることになります。

ランド円は2000年代後半に15〜17円前後でしたが、2026年8月時点では9円台後半です。この長期の推移は、その差の積み重ねとして理解できます。高い金利は、この目減りの裏返しでもあります。

なお、ここから「適正水準は何円」といった理論値を計算することはしません。それは形を変えた予想になるからです。方向の話として押さえるにとどめます。

材料②:過去の最安値と、そこからの戻り方

二つ目の材料が、過去にどこまで下げたかという実績です。

ランド円の史上最安値は、2020年のコロナショックでつけた5円台後半です。その前の最安値は2016年初めの6円台前半でした。詳しい経緯はランド暴落の歴史にまとめています。

ここで大事なのは、二つの読み方です。

一つは、過去の最安値は「底」ではないということです。2016年の6円台前半は、当時としての史上最安値でした。それが2020年に更新されました。最安値は、そのたびに更新されてきた数字です。支持線のように扱うと、判断を誤ります。

もう一つは、戻るには戻るが、前の高さには戻らないという傾向です。急落のあと、相場は落ち着けば水準を回復してきました。ただし、暴落前の水準まで戻り切ったことはありません。この点も暴落史の記事で扱っています。急落そのものがどういう仕組みで起きるのかはランド円はなぜ急落するのかを参照してください。

材料③:円側の事情

三つ目は、意外と見落とされやすい材料です。ランド円の下げは、半分が円側で決まります。

ランド円は「ドル円 ÷ 対ドルレート」という形で決まります(この仕組みはクロス円とは?で扱いました)。南アフリカで何も起きていなくても、円が強くなればランド円は下がります。

2026年に入って、日本銀行は政策金利を1.0%まで引き上げました。円を借りて高金利通貨を買う取引が巻き戻されると、円は買い戻される側に回ります(この動きは円キャリーの巻き戻しで扱いました)。ランド側が落ち着いていても、円側から下押しが来ることがあるわけです。

材料何を見るかどちらへ効くか
インフレ格差南アフリカと日本の物価上昇率の差長期の下方向
過去の最安値更新され続けてきた事実「底」の目安にはならない
円側の事情日本の金利とキャリーの巻き戻し短期の下方向

問いを置き換える:どこまで耐えられるか

ここまで三つの材料を見てきましたが、これらを足し合わせても「何円まで下がる」という答えは出ません。出ないものを追いかけても、時間が過ぎるだけです。

そこで、問いを置き換えます。

どこまで下がるかは分かりません。分かるのは、自分がどこまで耐えられるかだけです。

前者は予想ですが、後者は算数です。いくらの資金で、何ロットを持っていて、どの水準まで耐えられるのか。これは計算すれば答えが出ます。しかも、その答えは相場観に左右されません。誰かの見通しが当たろうが外れようが、自分の口座が何円まで持ちこたえるかという数字は変わらないからです。

この置き換えには、大きなメリットがあります。予想を信じて持っている場合、下げが進むたびに「予想は外れたのか」と考え直すことになります。耐えられる水準を先に出してある場合は、そこに届くまでは判断を変える必要がありません。下げの途中で迷う回数が、明確に減ります。

ランド円の水準含み損(10万通貨)
9.0円約7万円
8.0円約17万円
7.0円約27万円
6.0円約37万円
5.5円約42万円
※9.7円で10万通貨を買った場合の概算です(為替の変動のみを見た計算で、スワップや手数料は含みません)。実際の必要証拠金やロスカットの水準は業者によって異なります。

表の一番下は、2020年につけた史上最安値の圏内です。そこまで戻った場合に自分の口座が耐えられるかどうかは、一つの目安になります。ただし、そこで止まる保証はありません。前の節で見た通り、最安値は更新されてきた数字です。

必要証拠金や強制ロスカットの水準から、耐えられるレートを逆算する手順は強制ロスカットとは?にまとめています。受け取るスワップと為替差損の関係はスワップポイントとは何かを参照してください。

答えの出る問いに変える

「どこまで下がるのか」を調べても、出てくるのは他人の予想です。当たることもあれば外れることもあり、外れたときに責任を取る人はいません。

一方、「自分はどこまで耐えられるのか」には、確かめられる答えがあります。しかも、その答えを知っている人は、下げの途中で判断を迫られたときに慌てずに済みます。

次に「どこまで下がる」と検索したくなったら、その前に自分の口座で耐えられる水準を出してみてください。同じ問いが、答えの出る問いに変わります。