資源価格が上がれば、資源を売る国は外貨を稼げる。この関係については、当サイトでもランドはなぜ「資源通貨」なのかで扱いました。
ただし、この話には前提があります。掘ったものを、港まで運べることです。
南アフリカでは、その前提が長い間崩れていました。値段が上がっても、その分を受け取りきれない状態が続いていたのです。
資源国の稼ぎは、価格と量の掛け算
資源の輸出で入ってくる外貨は、単価と数量の掛け算で決まります。当たり前のようですが、当サイトはこれまで単価の側だけを扱ってきました。
運べる量に上限があると、値段が上がった分をそのまま受け取れません。1トンあたりの値段が2倍になっても、運べる量が半分に落ちていれば、入ってくる外貨は増えません。
しかも、量の側には価格と違う性質があります。値段は市場が決めるので日々動きますが、運べる量は線路と港の能力で決まるため、短期間では変えられません。設備を直すにも、車両を増やすにも時間がかかります。資源が高く売れる時期に運ぶ力が足りなければ、その好機はそのまま過ぎていきます。資源国の収支を見るときは、掛け算の両側を見る必要があります(稼ぎがどこまで国に残るかという別の論点は南アフリカの経常収支とは?で、輸出額が収支のどこに入るかは経常収支とは?で扱いました)。
そして南アフリカでは、この量の側が実際に落ち込みました。
何が詰まっていたのか
鉱山から港までを結ぶのが鉄道、港で船に積み込むのが積み出し設備です。どちらも国営物流会社のTransnet(トランスネット)が担っています(この会社の名前は、国営企業と財政の話として財務相が代わると、なぜランドは一晩で急落する?でも出てきました)。
押さえておきたいのは、原因の一覧ではなく結果の方です。運べる量そのものが減りました。鉄道貨物量は2022/23年度に1億4,950万トンまで落ち込み、ここが底になっています。
| 年度 | 鉄道貨物量 |
|---|---|
| 2022/23年度 | 1億4,950万トン(底) |
| 2024/25年度 | 1億6,010万トン |
| 2025/26年度 | 約1億6,800万トン(見込み) |
今は、戻ってきている
上記の表を見てわかる通り、南アフリカの物流は、今回復の途中にあります。
18か月の回復計画によって、まず減少そのものが止まりました。2024/25年度は1億6,010万トンと前年度から増え、2025/26年度は約1億6,800万トンまで戻る見込みです。石炭や鉄鉱石といったバルク貨物の鉄道実績は、コロナ前の水準に戻ったとされます。5年間で1,290億ランドを投じる立て直し計画も進行中です。
ただし、解決したわけではありません。バルク以外の一般貨物には課題が残っており、港の中のボトルネックも解消されていません。ストレッチ目標の1億8,000万トンにも、まだ届いていません。減少が止まって戻り始めた、という段階です。
直し方が、電力とは違った
南アフリカで長く問題になってきたもう一つの弱点が、電力でした。こちらも計画停電の日数が減り、同じように底を打って戻ってきています(経緯はロードシェディングとランド安にまとめました)。二つの弱点が、どちらも似た弧を描いていることになります。
違うのは、直し方です。
電力は、国が抱えたまま立て直しました。一方で物流は、線路を民間に開くという形をとりました。2026年5月までに、11社すべての民間鉄道会社がTransnetのインフラ管理部門と線路使用契約を結んでいます。第一波が狙う量は2,400万トンで、5年で5,200万トンまで広がる余地があるとされます。予算のインフラ枠からは5つの事業に219億ランドが充てられ、石炭回廊の年間能力を7,700万トン、鉄鉱石回廊を6,000万トンへ戻すことが目標に掲げられています。
ここで注意したいのは、これらがまだ契約と目標の段階だという点です。線路を使う権利を得たことと、実際に貨車が走って積み出されることは別です。参入した企業が車両を確保し、運行の体制を整えるまでには時間がかかります。数字として量に表れるのは、その先になります。
この違いは、確かめ方の違いにもなります。電力の場合、止まっているか動いているかは誰の目にも見えました。物流の場合、線路が開いたかどうかは発表で分かっても、実際に運ばれた量は年度の統計を待つ必要があります。進んでいるかどうかが、外から見えにくいわけです。
| 分野 | 誰が担い手か | ランドを見る上での意味 |
|---|---|---|
| 電力(Eskom) | 国が抱えたまま立て直した | 止まらなくなったかどうかを見る |
| 物流(Transnet) | 線路を民間にも開いた | 量が実際に増えたかどうかを見る |
見分け方――三つだけ見る
物流とランドの関係を追うときは、確かめる場所を三つに絞ります。
一つ目は、価格のニュースだけで判断しないことです。資源高の記事を読んだら、それが運び出せているのかを別に確かめます。値段と量は、別々に動きます。
二つ目は、量の数字を年度で追うことです。このとき見るのは目標ではなく実績です。目標は毎年発表されますが、実績が積み上がって初めて外貨になります。
三つ目は、民間の参入が実際の量に変わったかを見ることです。契約を結んだ段階と、貨車が動いている段階は違います。参入企業の数ではなく、運ばれたトン数の方に注目します。
掘る力と、運ぶ力
資源国の通貨は、地面の下にあるものだけでは決まりません。それを港まで運び、船に積み、代金を受け取るところまでが揃って、初めて外貨になります。金やプラチナの価格が上がっても、ランドが素直に反応しないことがあるのは、この経路のどこかに詰まりがあるからでもあります。
最後に、一つ対比を置いておきます。国営企業が傾いたとき、その出口は一つではありません。メキシコは国営石油会社の債務を国の予算で抱え込む形を選びました(メキシコは産油国なのに、なぜ石油がペソを支えないのかを参照)。南アフリカは、線路を民間に開く形を選びました。同じ「国営企業の問題」でも、その先の道筋が違えば、見るべき数字も変わってきます。
南アフリカの資源のニュースを読んだら、値段の隣にある量の数字も探してみてください。3通貨それぞれの弱点の場所は高金利通貨を徹底比較に、通貨そのものの全体像は南アフリカランドとは?にまとめてあります。

