ペソ円を数年持っている人の口座は、今は多くの場合、買値より上にあります。ペソ円は2020年3月に4.2円という過去最安値をつけたあと水準を上げ、2026年はおおむね9円台前半です。

そうなると出てくるのが、この含み益をどうするのかという問いです。そしてこの問いは、含み損を抱えたときの問いより厄介です。損を抱えているときは、少なくとも口座の中に「早く何とかしたい」という圧力があります。含み益が出ているときは、逆にいつまでも持っていられる分、「いつ利益確定するべきか」という問題が出てきます。

ペソ円だけ、立っている場所が違う

当サイトで扱っている3つの高金利通貨は、対円で見たときの現在地がそれぞれ違います。ランド円は2000年代後半の15〜17円から9円台後半へ長く水準を下げてきた通貨で、高いところで買った人は戻りを待っている状態です。リラ円は戻りを待つという出口が用意されてこなかった通貨でした。

ペソ円は、この2つとは立っている場所が違います。2020年3月の4.2円から9円台前半までの動きは、対円で見れば倍以上です。もちろん「上がってきた通貨」と言い切れるほど単純でもなく、2016年の時点でも5円台から9円台を行き来していました。それでも、今持っている人の多くが買値より上にいる、という点では3つの中で唯一の通貨です。

通貨持っている人が置かれやすい状態そこでの問い
ランド円高いところで買った分が戻っていない持ち続けるか、切るか
リラ円戻りを待つ形が成り立たない何年で見切るか
ペソ円買値より上にいるどこで降りるか

3つ目の問いだけ、これまで正面から扱ってきませんでした。

含み益が出ているときこそ、降りる判断は難しい

意外に思われるかもしれませんが、判断が難しいのは、むしろ含み益が出ているときです。理由は単純で、降りない理由が三つ揃ってしまうからです。

一つ目はスワップです。持っている間、毎日わずかずつでも受け取りが積み上がります。二つ目は値上がり期待で、上がってきた通貨は「もう少し」と思わせます。三つ目は税です。含み益は決済して初めて利益として確定し、課税の対象になります。持ったままなら、その支払いは先に延びます。

降りない理由働く向き降りる判断の材料になるか
スワップが積み上がる持ち続ける側ならない(層が違う)
まだ上がるかもしれない持ち続ける側ならない(予想は検証されない)
決済すると課税される持ち続ける側ならない(税は結果であって理由ではない)

三つとも、揃って同じ側に働きます。含み損のときは「早く終わらせたい」という圧力と「まだ戻るかもしれない」という期待が引っ張り合いますが、含み益が出ているときは引っ張り合いになりません。放っておくと、「含み損になるまで持ち続けてしまった」ということがよくあります。

受け取ってきたスワップは、降りる材料にならない

三つのうち、一番まぎらわしいのがスワップです。口座の中では、スワップも為替差益も同じ「増えた数字」として並びます。ところがこの二つは、別の層から出てきたものです。

スワップを生むのは、メキシコと日本の金利差です。Banxico(メキシコ中銀)の政策金利は6.50%で、日本銀行は1.0%程度。この差が第一層です。いっぽう含み益を作ったのは、ペソが対ドルでどう動いたかという第二層で、こちらは貿易も金利差もアメリカの事情も混ざって動きます。第一層がどれだけ積み上がっても、第二層がどこにいるかは何も教えてくれません。その第一層が1日いくらになるのかは、メキシコペソ円のスワップポイントにまとめました。

しかも第一層は、こちらの都合とは関係なく細くなります。日本銀行が利上げすれば金利差は縮み、受け取りは減ります。実際、日本の金利がここまで上がった分だけで、ペソの金利差は15%ほど削られている計算になります。円が買われればペソ円そのものも下がるので、日本銀行の利上げは二つの向きから同時に来ます。

含み益が大きいほど、返す額も大きい

もう一つ、含み益が出ているときに見落とされやすいことがあります。含み益はまだ口座から出ていない数字だ、という点です。決済していない以上、それは今の値段でそう見えているだけで、値段が動けばそのまま減ります。

ペソ円で10万通貨を持っていれば、1円下げるだけで10万円が減ります。9円台前半という水準では、1円は1割を超える動きです。そしてペソは、値動きが荒いから危ないという通貨ではありません。むしろ静かに見えるからこそ建玉が厚くなり、世界的なリスクオフでは先に売られる側にいます。2020年3月の4.2円は、そうした局面で実際に届いた水準です。

つまり、積み上がった含み益は、そのまま巻き戻しのときに返しうる額でもあります。大きく取れているほど、返す幅も大きくなります。

では、何を材料に決めるのか

ここまでで、材料にならないものが三つ出ました。受け取ったスワップ、値上がり期待、税。では何が残るのか。

使えるのは、含み損を抱えたときと同じ問いです。今の水準で、この通貨を新しく買うかどうか。買うなら持ち続けるのは筋が通っていますし、買わないなら、持ち続けている理由は相場観ではなく買値にあることになります。この問いはランド円で含み損を抱えたときの記事で扱ったものですが、益が出ているときは、答えがいっそう出しにくくなります。買値より上にいると、その水準を自分が選んだ結果だと感じやすいからです。

決められるのは、価格ではなく量と日付

それでも「いくらで降りるか」は決められません。どこが天井かは後からしか分からないからです。代わりに決められることが二つあります。

2026年後半でいえば、日本銀行が9月17日から18日、Banxicoが9月24日です。Banxicoは8月6日の会合を全会一致で据え置き、政策金利は6.50%のまま。ピーク時の11.25%から累計で4.75%分を下げてきて、そこで止まっている局面です。この先の判断がどこを見て決まるのかは、そのままスワップの厚みに返ってきます。

その含み益は、何に対して支払われたのか

ペソ円の含み益は、メキシコの金利が高かったから増えたのではありません。増やしたのは第二層で、そこはアメリカとの関係や世界のリスク気分で動く場所です。静かに見えることがそのまま持ち高を厚くしてきた通貨でもあります。

だとすれば、その含み益は「メキシコが高金利だったこと」への報酬ではなく、その時期に第二層が上を向いていたことの結果です。第二層は、こちらの都合では動きません。降りるかどうかを決める材料があるとすれば、そこを今どう見ているかであって、これまでいくら受け取ってきたかではありません。