含み損を抱えたランド円が、さらに下がっている。ここで買い増せば平均取得単価が下がる――そう考えて、迷ったことはないでしょうか?
この記事では「買い増すべき」「やめておくべき」という結論を出すのが目的ではありません。それは他人が決めることではないからです。
その代わりにお渡しするのは、買い増したときに動く数字の一覧です。多くの場合、目に入っているのは平均取得単価だけですが、実際には同時に三つの数字が動きます。
平均取得単価は下がる。含み損は減らない
まず、一番誤解されやすいところから確かめます。
買い増すと平均取得単価は下がります。これは事実です。ただし、その瞬間に含み損が軽くなるわけではありません。
理由は単純で、新しく買った分の損益はゼロだからです。9.70円で買った10万通貨が8.70円まで下げていれば、含み損は10万円。ここで8.70円で10万通貨を買い増しても、その新しい分は買った値段のままなので、損も益も出ていません。合計の含み損は10万円のまま、1円も減っていません。
では平均取得単価が下がるとは、何が変わったのか。どこまで戻れば損がなくなるか、その水準が下がったということです。9.70円まで戻らないと損が消えなかったものが、9.20円まで戻れば消えるようになる。戻ってきたときに助かる水準が下がったのであって、今抱えている損が小さくなったわけではありません。
ここが、単価の数字を見て「改善した」と感じてしまう理由です。改善したのは将来の条件で、現在の損失ではありません。
同時に、1円あたりの損失額が倍になる
二つ目の数字です。
保有量が10万通貨から20万通貨になれば、1円下落したときに消える金額も2倍になります。それまで1円で10万円だったものが、20万円になる。
同じ「1円の下落」でも、口座が受ける衝撃が変わるということです。相場の側は何も変わっていません。変わったのは、こちらが受け止める量です。
実効レバレッジで見ると、買い増しは倍率を一度に2倍にする行為でもあります。当サイトでは3倍以下を目安として紹介してきましたが(スワップポイントとは何かを参照)、その目安に対して自分が今どこにいるのかは、買い増す前と後で別の数字になります。求め方は強制ロスカットとは?にまとめてあります。
耐えられなくなる水準が、上がる
三つ目が、最も見落とされやすい数字です。
下がったところで買ったのに、ロスカットに届く水準は上に動きます。
| 動くもの | 向き | 中身 |
|---|---|---|
| 平均取得単価 | 下がる | 戻ってきたときに損が消える水準が下がる |
| 1円あたりの損失額 | 増える | 同じ下げ幅でも、口座が受ける金額が増える |
| 耐えられなくなる水準 | 上がる | ロスカットに届くレートが、現在値に近づく |
数字で見ます。資金30万円で、9.70円のときに10万通貨を持っていたとします。そこから8.70円まで下げた時点で、同じ10万通貨を買い増した場合です。
| 買い増す前 | 買い増したあと | |
|---|---|---|
| 保有量 | 10万通貨 | 20万通貨 |
| 平均取得単価 | 9.70円 | 9.20円 |
| 含み損(8.70円時点) | 10万円 | 10万円 |
| 現在値から1円下落したときの損失 | 10万円 | 20万円 |
| 受け取るスワップ | 1倍 | 2倍 |
| ロスカットに届く水準 | およそ7.0円 | およそ8.0円 |
注目したいのは最後の行です。買い増す前は、現在値の8.70円からロスカットまで1.7円ほどの余裕がありました。買い増したあとは、その距離が0.7円ほどに縮みます。下がったから買ったのに、耐えられる範囲は狭くなっているわけです。
理由は、二つの数字が同時に動くからです。保有量が増えれば、必要な証拠金も増えます。一方で、資金は増えていません。含み損を抱えたまま量を足すと、余力に対する建玉の比重が上がり、その分だけ耐えられる下落幅が短くなります。平均取得単価が下がったことと、この距離が縮んだことは、同じ一回の売買から出てきた別々の結果です。
8円台という水準は、ランド円が過去の下げで何度も通過してきた水準でもあります(実例はランド暴落の歴史にまとめています)。ここから先どこまで下がるかは誰にも分かりませんが(この点はランド円はどこまで下がるのかで扱いました)、下限が現在値に近づくという事実だけは、買い増した時点で確定します。
スワップは増える。ただし比率は変わらない
もう一つ、買い増しを後押しする材料として挙がるものがあります。スワップです。
保有量が2倍になれば、受け取るスワップも2倍になります。ここだけを見れば、買い増しは収入を増やす行為に見えます。
ところが、1円あたりの損失額も同じ2倍になっています。つまり、1円の下落が受け取ったスワップの何日分を消すか、という比率は、買い増す前と全く同じです。分子も分母も同じ倍率で増えているので、割合は動きません。
スワップと為替の値動きには大きな非対称があります(この構図はランド円はなぜ急落するのかで扱いました)。買い増しは、その非対称を改善しません。改善したように見えるとしたら、増えた側だけを数えているからです。
言い換えると、量を増やして変わるのは金額の大きさであって、割合ではありません。1日あたりの受け取りも、1円下落したときの損失も、どちらも同じだけ大きくなります。「収入が増える」という感覚だけが残りやすいのは、毎日目に入る数字がスワップの側だからかもしれません。
このあたりは、持ち続けるか決済するかを考えるときにも同じ形で出てきます(塩漬けのランド円をどうするかもあわせてどうぞ)。
買い増したあとの下限を、先に出す
買い増すかどうかを決める前に、買い増したあとにロスカット水準がどこへ動くかを計算してみてください。今回の例では、8.70円で買い増した瞬間に、下限がおよそ7.0円からおよそ8.0円へ上がりました。
この数字は相場観に左右されません。誰の予想が当たろうが外れようが、口座の中の算数として先に出せます。そして、その水準を見てからでも買い増しは間に合います。通貨そのものの性質を確かめたい方は南アフリカランドとは?もどうぞ。
今回の例で動いた三つを、もう一度並べておきます。
- 平均取得単価:9.70円 → 9.20円(下がる)
- 1円下落したときの損失:10万円 → 20万円(増える)
- ロスカットに届く水準:およそ7.0円 → およそ8.0円(上がる)
下がった値段だけを見て決めると、この三つのうち一つしか数えないまま量を増やすことになります。

