高い金利の通貨を持っていると、スワップポイントが毎日入ってきます。ランド円なら、おおむね10万通貨あたり1日130〜200円程度が目安です。1日150円で1年持ち続ければ、約5万円になります

この5万円を、また建玉に回したらどうなるか。受け取ったものを元手に足していけば、翌年はもう少し多く受け取れるはずです。いわゆる複利の考え方です。

ただ、この「複利」という言葉は、FXのスワップにそのまま当てはまるものではありません。当てはまらない理由は、金利の高さでも通貨の弱さでもなく、受け取ったスワップがどこに置かれるかという一点にあります。

ここでは、受け取ったスワップを再投資しようとしたときに実際は何をすることになるのか、そのときどの数字が動くのかを順番に見ていきます。スワップそのものの仕組みはスワップポイントとは何かで扱いました。

受け取ったスワップは、どこに積まれるのか

まず、預金や投資信託の複利と並べてみます。

増える仕組み増えた分が置かれる場所次に利がつく対象
定期預金元本に組み入れられる増えたあとの元本
投資信託(再投資型)分配金が自動で買い付けに回る増えたあとの口数
FXのスワップ口座に現金として置かれる建玉。現金の側には何もつかない

違いは最後の部分です。預金や再投資型の投信では、増えた分が自動的に「次に利がつくもの」へ組み込まれます。FXでは、受け取ったスワップは口座に現金として積まれるだけで、その現金には次のスワップが付きません。

もっとも、その分配金がどこから出たものかは、受け取る側からは分かりません。中身の資産の値上がりなのか、二つの通貨の金利差なのか、為替なのか。この三つが一つの金額になって出てくる投資信託については通貨選択型ファンドとはにあります。

スワップが付いているのは、口座残高ではなく建玉の方だからです。10万通貨を持っているから毎日入ってくるのであって、口座に5万円の現金があるから入ってくるわけではありません。その1日分が付くかどうかは、持っていた長さではなく1日一度の区切りをまたいだかで決まります。時刻はスワップポイントは何時につくかにまとめてあります。

受け取ったまま放っておけば、その部分は複利になるどころか、何も生まない現金として置かれ続けます。FXのスワップは、黙っていても増えない。ここが出発点です。

「複利にする」とは、実際には買い増すこと

では複利にするには、何をすればよいのでしょうか? やることは一つで、現金を建玉に変えることです。受け取ったスワップを使って、保有量を増やす。

ここで、話の性質が変わります。「複利で増やす」は口座の中で勝手に進むことのように聞こえますが、実際にやっているのは買い増しです。相場を見て、量を決めて、注文を出す。他の売買と同じ、一回の判断です。

そして買い増しには、買い増しの数字が付いてきます。量が増えれば、1円下落したときに動く金額も増えます。10万通貨で1円なら10万円、20万通貨なら20万円です。含み損を抱えた状態で量を増やしたときに何が動くかは、ナンピンで動く三つの数字で整理しました。

「複利」と呼ぶか「買い増し」と呼ぶかで、口座の中で起きることは変わりません。ただ、呼び方によって、確かめる項目が変わります。複利と呼んでいる間は、増える側しか数えていないからです。

複利が前提にしている「元本」が、ここには無い

もう一段さかのぼると、そもそも複利という言葉が前提にしているものが、この取引には見当たりません。それは元本です。

預金の複利が成り立つのは、元本が減らないからです。100万円の元本に利息が付いて101万円になり、翌年は101万円に利息が付く。元本そのものが目減りしない前提があって、はじめて「増えた分にも利がつく」という話ができます。

FXで利がついているのは建玉です。そして建玉の評価額は、毎日動きます。9.5円で買った10万通貨が7.5円まで下げれば、含み損は20万円です。1年かけて受け取る約5万円に対して、その4倍の金額が評価の側で動いているわけです。ランド円はなぜ急落するのかで見た通り、この二つは速さがまるで違います。

つまり、増えた現金を建玉に変えた瞬間、それは「元本に組み入れる」ことではなく、毎日値段の動くものを、さらに買うことになります。複利という言葉が思い浮かべさせる安全な連鎖と、実際に起きていることの間には、この距離があります。

増えた現金で増やすなら、何が変わって何が変わらないか

とはいえ、受け取ったスワップという現金で量を増やすことと、含み損を抱えたまま量を増やすことは、同じではありません。決定的に違うのは、口座の資金が増えているかどうかです。

動くもの資金を足さずに量を増やす受け取った現金で量を増やす
保有量増える増える
1円下落したときの損失増える増える
口座の資金変わらない受け取った分だけ増えている
実効レバレッジ上がる増やす量しだいで、元の水準を保てる
耐えられる下落幅狭くなる倍率を保てたなら、ほぼ変わらない
※実効レバレッジは、建玉の金額を口座の資金で割った数字です。ロスカットの条件は業者によって異なり、スプレッドやスワップの受け払いは含んでいません。

下の二行が分かれるところが、この記事の要点です。実効レバレッジは「建玉の金額 ÷ 口座の資金」なので、分母が増えているなら、分子を同じ割合で増やすかぎり倍率は動きません。倍率が動かなければ、耐えられる下落幅も動きません。

ここから、増やせる量の上限が計算できます。受け取った現金に、今の倍率をかけた金額までです。3倍で持っている人が5万円を受け取ったなら、増やせるのは15万円分の建玉まで。ランド円が9円台後半なら、1万5,000通貨ほどが目安になります。受け取った5万円で5万円分だけ買い足すと、倍率はむしろ下がります。

逆に言えば、この上限を超えて増やした分は、複利ではなく倍率の引き上げです。実効レバレッジを「何円の下落に耐えられるか」へ翻訳する手順は、強制ロスカットとは?にまとめてあります。増やす前と増やしたあとで、この数字を並べて見ておけます。

再投資に回せるのは、税を引いたあとの額

もう一つ、受け取った5万円がそのまま原資になるとは限りません。

店頭のFX取引の損益は「先物取引に係る雑所得等」に入り、税率は20.315%です。そして、スワップがいつ所得になるかは口座によって分かれます。受け払いのあった時点で課税対象になる口座もあれば、建玉を決済するまで対象にならない口座もあります。

この違いは、税だけの話ではありません。決済の時点で受け払いが行われる口座では、建玉を持っている間、スワップはまだ手元の現金になっていません。再投資に回そうにも、回す原資が口座の中に無いということです。複利にできるかどうかは、通貨の選び方より先に、口座の仕様で決まっている場合があります。

受け払いが日々行われる口座なら原資は毎日入ってきますが、その分、受け取ったスワップは、その年のうちに課税される側に入ります。評価がマイナスでも、それは決済するまで計算に入りません。給与のある方なら、給与と退職所得を除いた所得の合計が20万円を超えると確定申告が必要になる、という線もあります。この非対称はスワップポイントに税金はかかる?で詳しく扱いました。

再投資の原資として数えるなら、受け取った額面ではなく、そこから引かれるものを見込んだあとの金額です。複利の計算は、この一段でも実際より速く見積もられがちです。

利率が動くという、もう一つの前提

複利の計算には、もう一つ暗黙の前提があります。利率が変わらないことです。

スワップの原資は2国間の政策金利の差で、その金利は上下に動きます。今の水準を並べると、南アフリカが7.00%、メキシコが6.50%、トルコが37.00%、日本が1.0%程度です。この数字がどれか一つでも動けば、受け取る額は変わります。日本の金利が上がる局面では、新興国側が何もしなくても差は縮みます。

差が縮むどころか、向きが変わることもあります。高い金利の通貨を売って持てば、同じ金利差を払う側に回ります。その構造はマイナススワップとは?で整理しました。買って持つ側でも、金利差が縮めば受け取りは細ります。

そう考えると、複利の試算は予定ではなく仮定です。今の受取額が続いたら、という条件が付いた数字であって、その条件の方は中央銀行の会合ごとに書き換わっていきます。

その5万円を、どこへ置くのか

受け取ったスワップの置き場所は、大きく二つです。現金のまま口座に残すか、建玉に変えるか。

現金のまま残せば、その分は何も生みません。ただし、口座の資金は増えたままなので、実効レバレッジは少しずつ下がり、耐えられる下落幅は広がっていきます。建玉に変えれば受け取りは増えますが、増やせる上限を超えたところからは、倍率を上げていることになります。どちらが正しいという話ではなく、受け取ったスワップを何に使ったかで、口座の性質が少しずつ変わっていくということです。

毎日プラスの数字が入る取引では、何かを決めなければならない場面が、向こうからはやって来ません。受け取ったスワップをどう扱うかも、放っておけば「現金のまま置く」が既定の答えになります。同じことは、評価が増えていく側でも起こります(ペソ円の含み益は、どこで降りるのかで扱いました)。それを選んだのか、選ばずにそうなっているのかは、分けて考えられます。

その5万円は、元本に戻すお金なのか。それとも、次の下落に耐えるための厚みなのか。複利という言葉を使う前に、この問いを先に置いて、増やす量を検討することが、長く相場に残る上で大切なことです。