メキシコの対米依存というと、関税やUSMCAの話になりがちです(この論点はペソを動かす「対米リスク」とは?で扱いました)。工場があり、輸出があり、通商交渉がある。たしかにそれが大きな柱です。

ただ、アメリカからメキシコへお金が流れてくる道は、もう一本あります。工場でも契約でもなく、アメリカで働く人が家族に仕送りしているという道です。

送金は、メキシコにとってどれくらい大きいのか

まず規模を押さえます。メキシコが受け取る送金は、2024年に647億ドルに達しました。件数は1億6,480万件で、どちらも過去最高です。2025年は618億ドルで、国内総生産の3.4%にあたります。

経常収支の中では、送金は第二次所得という区分に入ります(区分の中身は経常収支とは?で扱いました)。ここで大事なのは、その金額が赤字を埋める実数になっていることです。2025年1〜3月期のメキシコの経常赤字は76.1億ドルでしたが、同じ期間の第二次所得の黒字は141.53億ドルありました。送金がなければ、赤字はもっと大きくなっていたということです。

もう一点、この資金の性格も見ておきます。メキシコは1994年に、逃げ足の速い短期の資金で赤字を埋めていて崩れた経験を持つ国です(テキーラ危機(1994)を参照)。送金はそれとは違い、市場の空気が変わったからといって一斉に引き揚げられる類のお金ではありません。ペソという通貨の土台を考えるとき(メキシコペソとは?もあわせてどうぞ)、この違いは小さくありません。

11年続いた増加が、2025年に途切れた

その送金が、2025年に減りました。前年比4.6%減です。11年続いていた増加が途切れ、16年ぶりの大幅な減少となりました。

背景として報じられたのは、アメリカでの移民の取り締まりへの警戒です。ただし、これは報道の推量であって、確かめられた因果ではありません。実際、月次では8か月連続の減少といった局面もあり、要因を一つに絞れる形にはなっていませんでした。

2026年、数字は戻った

そして今年です。2026年1〜6月の送金は307億5,900万ドルで、前年同期比3%の増加となりました(メキシコ銀行が8月3日に発表した数値です)。前年同期は298億4,200万ドルでしたから、9億ドルあまり増えた計算になります。

回復の背景については、アメリカ側が強引な取り締まりを自重したことが追い風になった可能性が高い、と報じられています。ここも「可能性が高い」までで、言い切れる材料はありません。

見出しだけを読めば、「送金は戻った」で話は終わります。ところが、中身を開けると別の絵が出てきます。

ただし、戻ったのは金額だけ

同じ期間の送金回数は7,597万回で、前年同期比2%の減少でした。一方、1回あたりの平均は405ドルで、5%増えています

項目2026年1〜6月前年同期比
送金額307億5,900万ドル+3%
送金回数7,597万回−2%
1回あたり405ドル+5%
※メキシコ銀行が2026年8月3日に発表した数値です。月次は改定されることがあるため、最新値は公表元でご確認ください。

つまり、送る人は減っていて、残った人が多く送っているということになります。合計額が増えたのは、送り手が戻ってきたからではありません。回数の減少を、1回あたりの増額が上回っただけです。

この違いは、先行きの読み方を変えます。合計だけを追っていれば「2025年の落ち込みから回復した」と受け取れます。回数まで見れば、支えている人の数はまだ減り続けていると読めます。同じ数字を見て、逆の結論が出るわけです。

1回あたりの額が増える理由は、いくつも考えられます。アメリカで働く人の賃金が上がった、送る頻度をまとめた、家族の必要が増した。どれも起こりうることで、公表されている統計からは区別できません。ただ、回数が減っているという事実は、送り手の数そのものが減っている可能性を示します。1回あたりの増額には上限がありますが、送り手の減少が続けば、いずれ合計にも表れます。

なお、2026年1月1日から、アメリカでは送金に1%の税がかかるようになりました。対象は現金・マネーオーダー・銀行小切手による送金で、銀行口座やカードを経由するものは対象外です。回数が減って1回あたりが増えたという動きと、この制度が始まった時期は重なっています。ただし、これを結び付けて説明した調査は見当たりません。制度の存在は事実として押さえつつ、原因と決めつけないでおくのが妥当です。

ペソが強いと、送金はどうなるのか

もう一つ、ペソを持つ人が気にする論点があります。為替との関係です。

ドルで送られたお金は、メキシコでペソに換えられます。だからペソが強いと、同じドル額でも受け取るペソは目減りします。ここで直感的に思うのは「ペソ高なら送金は減るはずだ」ということでしょう。

ところが、実際には逆の局面が両方あります。2023年はペソが強い局面で、送金は41か月連続の増加を記録しました。目減りする分を補うために、多く送ったとも読めます。一方2025年は、ペソ高のもとで6か月連続の減少となりました。目減りするので、送るのを待ったとも読めます。

どちらが正しいという話ではなさそうです。送る目的が生活費を届けることなのか、貯めることなのかによって、同じペソ高が逆向きに出ると考えると、両方の局面が理解できます。ペソの水準そのものは、2026年8月上旬に対ドルで17.2台と年初来で最も強い圏にあります(金利面からペソを支える構造はメキシコ中銀「Banxico」の読み方で扱いました)。

通貨見るところ
南アフリカランド稼ぎがどこまで国に残るか(出ていく側の大きさ)
メキシコペソ対米の輸出と送金が支える一方、米国側の事情に左右される
トルコリラ何を買っているかと、赤字を何で埋めているか

南アフリカは稼ぎがどこまで残るかが論点でした(南アフリカの経常収支とは?)。トルコは何を買っていて、赤字を何で埋めているかでした(トルコの経常収支とは?)。メキシコの場合は、輸出と送金という二本の柱が、どちらもアメリカ側の事情につながっている点が特徴になります。

合計ではなく、誰が送っているか

送金の数字を見るとき、月ごとの合計額はニュースになりやすい一方で、そこだけを追うと中身の変化を見落とします。ペソを持つ人が確かめておきたいのは、回数と1回あたりの額です。

合計が横ばいでも、回数が減り続けているなら、支えている土台の方は細っています。逆に、回数が戻ってきているなら、合計の伸びが小さくても土台は厚くなっています。3通貨それぞれで見るところが違うことは高金利通貨を徹底比較にまとめてあります。メキシコについては、次の発表を合計だけで読まないでください。回数と1回あたりを並べて初めて、その合計が何を意味するのかが分かります。