7月30日の夜、円が急に買われました。1ドル=162円80銭あたりから、50分ほどで157円台まで。市場では、日本の当局による円買い介入があったとみられています。財務省は実施を公表しておらず、金額が分かるのは後日の公表を待つことになります。

以前、介入のニュースは「向き」と「弾の残り」で読むものだと書きました(記録的な円安、為替介入は効くのか?)。通貨安を止める介入は、手持ちの外貨を売る行為なので、弾には限りがあります。では、その弾薬そのものは、どうなっているのでしょうか? 何で出来ていて、どれだけあれば足りるのか。「外貨準備が急速に細った」というニュースを何度も目にしてきたはずですが、それが多いのか少ないのかを判定する物差しは、意外と共有されていません。

外貨準備とは、国のドルの貯金

外貨準備とは、国(多くの場合は中央銀行)が持っている外貨建ての資産のことです。自国通貨が売られたときには、これを売って自国通貨を買い戻します。

ただし、ただの貯金ではありません。使い道が決まっている貯金です。輸入代金の支払い、外貨建ての借金の返済、そして通貨の防衛。この三つの用途があることが、後で物差しになります。「いくらあるか」だけを見ても意味がないのは、何に使う予定のお金なのかで、必要な額が変わるからです。

準備は、何で出来ているのか

準備高という一つの数字の中には、性格の違うものが混じっています。

何を持っているかすぐ介入に使えるか
米国債などの外国債券売れば現金になる。ただし大量に売ると値が下がる
外貨の預金すぐ使える
価値はあるが、売って介入に回すには向かない
IMFに関係する枠引き出せるが、手続きと条件がつく
※構成は国によって異なり、時期によっても変わります。

中心になるのは、米国債をはじめとする外国の債券です。利息を生みながら持てて、必要なときには売れる。ただし、大量に売れば債券の値段そのものを押し下げてしまうので、いつでも好きなだけ現金化できるわけではありません。

金については、一つ補足しておきます。近年、多くの国の中央銀行が金を買い増しています。ただ、金は守りの資産であって、明日の介入に使う弾ではありません。金を売って通貨を買い支えたとなれば、市場は「そこまで余裕がないのか」と受け取ります。持っていることの安心と、すぐ使えることは別です。

どれだけあれば足りるのか――二つの物差し

ここが、この記事で最も実用になる部分です。「1,000億ドルある」と言われても、多いのか少ないのかは、比べる相手がなければ判断できません。よく使われる物差しが二つあります。

一つ目は、輸入の何か月分かという見方です。その国が輸入代金の支払いを、何か月ぶん続けられるか。伝統的な目安は3か月分とされています。国が食いつなげる期間に近い考え方です。

二つ目は、一年以内に返す対外債務に対して何%あるかという見方です。目先返済期限が来る外貨建ての借金を、手持ちで返しきれるか。100%を下回ると、市場は返済を心配しはじめます。

物差し何を見るか目安
輸入の何か月分か輸入代金の支払いを続けられる期間3か月分
短期の対外債務に対して何%一年以内に返す外貨の借金を返せるか100%
※目安であり、これを割ればすぐ危機というものではありません。

なぜ二つ必要なのでしょうか? 一つ目は日々の暮らしと商売の物差しで、二つ目は借金の期限の物差しだからです。そして新興国で問題になるのは、たいてい二つ目のほうです。輸入は減らせますが、返済の期限は動かせません。外貨建ての債務が重い国ほど、この物差しが効いてきます(ドル高が外貨建て債務の負担を重くする経路はFRBが利上げしたら、ランド円・ペソ円・リラ円はどうなる?で扱いました)。

表向きの数字と、本当に使える分は違う

準備高として発表される数字は、手持ちの合計です。ところが、その中にはあとで返す約束のついたドルが混じっていることがあります。

例えば、他の国の中央銀行と交わした通貨の交換の取り決めで、一時的に受け取っているドル。あるいは、国内の銀行から預かっているドル。どちらも準備高には計上されますが、自分のものではありません。返す日が来れば出ていきます。

だから、合計から返す分を差し引いた残りを見る必要があります。これが純準備です。表向きの数字が横ばいでも、返す約束のついた分が増えていれば、自由に使える弾は減っています。

トルコが、この差がはっきり出た例です。準備はピーク時に約1,010億ドルありました。ところが通貨防衛で1か月に400億〜500億ドルを売った局面では、純準備が200億ドルを割り込んでいます(経緯はトルコリラ暴落の歴史なぜトルコの「政治ニュース」でリラは急落する?にまとめています)。合計で見るか純額で見るかで、同じ国の姿がまるで違って映ります。

ここから引き出せる読み方は一つです。「準備は十分にある」という説明を聞いたときに、それは合計の話なのか、自由に使える分の話なのかを一度考える。市場が見ているのは後者です。そして準備の細りは、国の体力への不安として格付けにも響いてきます(ソブリン格付けと新興国通貨を参照)。

準備は、介入していなくても増えたり減ったりする

月次で発表される準備高を読むときに、注意したい点があります。準備高が動く理由は、介入だけではありません。

金の値段が動けば、保有している金の評価額が変わります。ユーロなど他の通貨で持っている資産をドルに換算し直せば、為替次第で数字が変わります。保有している債券の値段と利息でも動きます。

つまり、「今月は準備が減った、だから介入したのだろう」と結論付けてはいけません。逆に、実際には介入していても、金の値上がりで目減りが見えにくくなることもあります。見るべきは増減の理由がどれなのかで、介入額を別に公表している中央銀行もあります。冒頭で触れた今回の介入も、実施額が分かるのは後日の公表を待つことになります。

3通貨では、どこを見るか

同じ「外貨準備」でも、論点になる場所は通貨によって違います。

南アフリカは、資源が高く売れる時期に外貨が入ってきます。準備の厚みが資源の周期と結びつきやすい国です(この構造はランドはなぜ「資源通貨」なのかで扱いました)。

メキシコは、1994年に固定相場を守りきれず準備を撃ち尽くした経験があります。その後、準備を厚く積み上げてきました(テキーラ危機(1994)を参照)。危機の教訓が、いまの準備の姿に残っています。

トルコは、前の節で見たとおり、合計と純額の差が論点になってきた通貨です。「準備がある」という言葉の意味が、他の二つとは違います。

南アフリカは周期、メキシコは教訓、トルコは中身。同じ数字を見るときでも、注目する場所が変わります。

見分け方――三つだけ見る

準備に関するニュースを読むときは、三つを確かめます。

一つ目は、元がいくらだったかです。減った額ではなく、減る前の水準に対してどれだけ減ったのか。400億ドルという額は、1,000億ドルある国と300億ドルしかない国とでは、意味がまるで違います。

二つ目は、何か月分・何%なのかです。輸入の何か月分に相当するのか、一年以内に返す借金に対して何%なのか。

三つ目は、合計なのか、自由に使える分なのかです。語られている数字が、どちらを指しているのか。

「減った」は、それだけでは事件ではない

外貨準備が減ること自体は、異常なことではありません。通貨を支えるために使えば減ります。そもそも、使うためにあるお金です。昨夜の介入も、実施されていれば準備は減ります。

問題になるのは、何に対して足りなくなったときかです。輸入の支払いに対してなのか、返済期限の来る借金に対してなのか、それとも合計はあっても自由に使える分が残っていないのか。次に「準備が急速に細った」というニュースを見たら、この三つのどれの話なのかに置き直してみてください。同じ数字が、そこで初めて読める数字になります。