今週は、「利上げ」をめぐるニュースが二日続けて届きます。7月28日から29日のFOMCは、日本時間30日の未明に結果が出て、政策金利は据え置きとなりました。そして7月30日から31日には、日本銀行の金融政策決定会合が控えています。二つの中央銀行が並ぶ週です。
高金利通貨を持っている人にとって、この二つは「どちらも利上げのニュース」に見えます。ところが、届く場所が違います。日本銀行の決定は受け取るスワップのほうに、FRBの決定は持っている通貨のレートのほうに影響します。
日本銀行側については日銀が利上げしたら、ランド円・ペソ円・リラ円はどうなる?で扱いました。この記事では、アメリカの金利が動いた日に、自分の建玉の何が動いて、何が動いていないのかを仕分けていきます。
二つの利上げは、口座の別の場所に来る
先に全体の見取り図を置きます。
| 日本銀行の利上げ | FRBの利上げ | |
|---|---|---|
| 影響する層 | 第一層(その国と日本の金利差) | 第二層(その通貨の対ドル) |
| 口座のどこに出るか | 受け取るスワップ | 持っている通貨のレート |
| 速さ | 遅い。ただし確実に続く | 速く、荒い |
| クロス円への向き | スワップが減り、同時に円高=二方向とも逆風 | 対ドルは下、ドル円は上=上下から同時に押される |
| 3通貨の並び方 | 金利差の小さいペソ・ランドほど削られ、リラはほぼ無傷 | ペソは直接、ランドは資源経由、リラは債務経由で深い |
同じ「利上げ」という言葉で届く二つのニュースを、口座のどこに出るかで仕分ける。これができると、会合の日に何を見れば良いかが自動的に決まります。以下は、この表を一つずつ詳しく見ていきます。
FRBは、いまどこまで来たのか
アメリカの政策金利(FF金利の誘導目標)は3.50〜3.75%で、7月29日の会合でも据え置きとなりました。据え置き自体は続いていますが、その中身は前回から変わっています。
6月の会合では、決定は全会一致でした。ただし同時に公表された参加者の金利見通しは割れていて、18人のうち9人が年内に少なくとも1回の利上げを見込み、8人が据え置き、1人が利下げという分布でした。そして7月の会合では、その割れが採決そのものに出ます。決定は9対3で、3人が0.25%の利上げを主張して反対に回りました。決まったことは「据え置き」でも、委員会の中では利上げを求める声が数として現れた形です。
ここで押さえておきたいのは、「据え置いている」ことよりも、「下げていない」ことのほうです。日本が1.00%まで上がってきた一方で、アメリカは3%台後半にとどまっています。この差が、ドル円と、新興国通貨の対ドルの両方の土台になっています。
なお、この記事ではFRBの政策判断そのものの是非には立ち入りません。扱うのは、アメリカの金利が動いたときに何がどう動くか、という部分だけです。
効き方その1:ドルが強くなると、対ドルが下がる
当サイトの二層構造でいう第二層は、その通貨の対ドルレートを動かす力のことでした(枠組みは二層構造の金利差で扱っています)。FRBの利上げは、この第二層に直接届きます。
理屈は単純です。アメリカの金利が上がると、わざわざ新興国のリスクを取らなくても、ドルで利回りが取れるようになります。すると新興国通貨から資金が引き揚げられ、対ドルは下がりやすくなります。ただし、利上げが事前に十分織り込まれていれば、発表後にほとんど動かないこともあります。
ここで、クロス円の算術が効いてきます。クロス円は「ドル円 ÷ 対ドルレート」で決まるのでした(クロス円とは?を参照)。FRBの利上げは、この式の分子と分母の両方を、同時に押し上げる方向に働きます。
- 分母(ドルランドなど)は、ランドが対ドルで安くなると数字が大きくなる。分母が大きくなるので、クロス円にはマイナス
- 分子(ドル円)は、ドルが円に対しても強くなるので大きくなる。クロス円にはプラス
つまり、上と下から同時に押されます。差し引きがどちらに出るかは、その通貨と円の、どちらがドルに対してより弱いかで決まります。ここから、実務的に大事な一点が導かれます。ランド円がほとんど動かなかった日でも、中では二つの力が働いていることがある、ということです。「動かなかった」は「何も起きなかった」ではありません。
もう一つ、混同しやすい点を分けておきます。ドルが買われる理由には、金利で買われる場合と、不安で買われる場合があります。この記事で扱っているのは前者です。世界がリスクを避ける気分になって買われるドルは、震源が違います(その仕組みはリスクオン・リスクオフとは?で扱いました)。同じ「ドル高」でも、出どころを分けて見ておくと読み違えが減ります。
効き方その2:3通貨で、効く順番が変わる
FRBの利上げは3通貨すべてに影響しますが、届く経路がそれぞれ違います。
| 通貨 | 主にどの経路で届くか | 速さ | 日本銀行の利上げのときは |
|---|---|---|---|
| メキシコペソ | 対米金利差が直接縮む。Banxicoの会合はFRBの約1週間後に置かれている | 速い・直接 | 比率で最も削られた=どちらにも弱い |
| 南アフリカランド | ドル高が資源価格を押し下げ、資源国通貨が売られる。経由が長い | 間接・経由が多い | 比率で大きく削られた |
| トルコリラ | 金利差の算術ではほとんど動かない。ただし対外債務の多くが外貨建てで、ドルが強くなると返済の負担が重くなる | 遅いが、深い | 約3%しか削られず、ほぼ無傷だった |
右端の列と、その左側を見比べてください。ここに、この記事で最もお伝えしたい発見があります。
日本銀行の利上げでは、金利差の小さいペソやランドほど比率で削られ、金利差37%のリラはほとんど痛みませんでした。ところがFRBの利上げでは、その順番が並び替わります。リラは金利差の算術では鈍いのに、外貨建ての債務という別の経路を通って、深いところに影響が及びます(トルコの対外債務が地政学リスクの増幅装置になる仕組みはトルコリラはなぜ中東情勢で動く?で扱いました)。ランドは、ドル高が金やプラチナの価格を押し下げ、資源国通貨として売られるという長い経路をたどります(ランドはなぜ「資源通貨」なのかを参照)。
同じ「高金利通貨」でも、震源がどちらの国かで、弱い通貨の順番が変わる。3通貨がそれぞれ違う仕組みで動くことは高金利通貨を徹底比較でも扱いましたが、外側から同じ力が加わったときでさえ、届き方は三者三様です。
では、スワップはどうなるのか
読者が最も気になるのは、ここかもしれません。結論から書くと、FRBが動いても、受け取るスワップはほとんど変わりません。第一層はその国と日本の金利差で決まるものであって、アメリカの金利はその計算に入っていないからです(スワップポイントとは何かを参照)。
ただし、迂回路があります。
ドルが強くなると、その通貨は安くなります。通貨が安くなると、輸入する物の値段が上がります。すると、相手国の中央銀行は利下げをしにくくなり、場合によっては利上げに追い込まれることもあります。つまりFRBの利上げは、回り道をして第一層に届くことがあるわけです。しかも、金利差が広がる向きに働くこともあります。
実例がメキシコです。Banxicoは景気が弱いなかで利下げを打ち止めました。FRBとの金利差が縮むと資金が流出しやすくなるためです(メキシコ中銀「Banxico」の読み方で扱っています)。政治から独立していても、隣の中央銀行からは独立できないということです。
だから「FRBが利上げ=高金利通貨に一方的な逆風」という単純化は、半分しか当たっていません。レートには逆風でも、スワップにはむしろ追い風になる経路があります。影響する場所と、その向きを分けて見る必要があります。
会合の日、何を見ればいいのか
見方を手順にします。
一つ目は、決定そのものより割れ方を見ることです。今回の据え置きは予想どおりで、決定だけを見れば材料としては消化済みでした。動きがあったのは反対票のほうです。9対3という採決で、3人が利上げを主張しました。決定は「据え置き」でも、委員会の中で利上げを求める声がこれだけあるという事実は、次回以降への見方を変えうる材料になります。会合の結果を「上げたか、据え置いたか」だけで受け取ると、この部分を読み落とします。
二つ目は、声明と会見で次をどう示したかを見ることです。金利を動かさなくても、示唆が変われば相場は反応します。今回の会見でウォーシュ議長は、据え置きは不確実な時期には特に適切な判断だと説明する一方で、2%の物価目標を堅持する姿勢を強調しました。なお、参加者の金利見通し(ドットプロット)が公表されるのは年4回の会合だけなので、公表されない回は声明と記者会見がすべてになります。
三つ目は、順番で追うことです。まずFRB、その約1週間後にBanxico。メキシコペソを持っているなら、FRBの結果を見てからBanxicoを読むのが順番になります。
四つ目は、3通貨を横に並べることです。揃って同じ方向に動いたなら円側、バラバラに動いたならドル側かそれぞれの通貨側です(この見分け方はクロス円とは?で扱いました)。日本銀行の日とFRBの日は、この見分けが最も役に立つ日です。
五つ目に、日付が分かっているイベントの前は建玉を軽くしておくという考え方があります(強制ロスカットとは?を参照)。過去には、アメリカの金利をめぐる見方が変わったことをきっかけに、円キャリー取引が一気に巻き戻された局面もありました(その仕組みは円キャリーの巻き戻しで扱っています)。
その建玉を動かしているのは、どちらの国の金利なのか
日本銀行の記事では、「その高金利は、どちらの国が作っているのか」という問いで閉じました。受け取るスワップの原資は、半分が日本側にあるという話です。
この記事の問いは、その先にあります。いま自分の建玉を動かしているのは、相手国の金利なのか、日本の金利なのか、それともアメリカの金利なのか。
高金利通貨を持つということは、相手国とアメリカと日本、三つの国の金利を同時に持つということです。取引画面には二つの通貨しか表示されていませんが、値段を決めているのは3か国の金融政策です。ランド円という一本のレートの中で、南アフリカとアメリカと日本が、それぞれ別の場所を引っ張っています。
今週のように会合が続く週は、その構造が見えやすくなります。アメリカ側は据え置きで、反対票という形に割れが出ました。この後には日本銀行の会合が控えています。円側の話は日銀が利上げしたら、ランド円・ペソ円・リラ円はどうなる?にまとめました。二つの結果が出そろったところで、どちらの国の金利が自分の建玉のどこを動かしたのかを確かめてみると、同じニュースから引き出せるものが変わってきます。

