日本銀行の金融政策決定会合が、7月30日から31日にかけて開かれます。

高金利通貨を持っている人は、ふだん相手国のニュースを追いかけます。南アフリカの政策金利、メキシコのインフレ率、トルコの政治情勢。どれも大事な材料です。ただ、受け取っているスワップの原資は、相手国の金利そのものではありません。その国と日本との金利差です。日本の金利が上がれば、南アフリカが何もしなくても、受け取れる額は変わります。

言い換えると、「高金利通貨」の高金利は、半分を日本側が作っているということです。この記事では、日銀の一手が自分の口座のどこに、どの速さで影響してくるのかを整理します。

日本銀行は、いまどこまで来たのか

まず、日本の金利がどこまで動いてきたのかを確認します。

時期政策金利できごと
2024年3月0%程度へマイナス金利政策を解除(17年ぶりの利上げ)
2024年7月0.25%程度追加利上げ
2025年1月0.5%程度追加利上げ
2025年12月0.75%程度追加利上げ
2026年6月1.00%程度0.25%幅の追加利上げ。国債買入れ減額の停止もあわせて決定
※日本銀行の公表にもとづく概要です。表記は「〜%程度」を簡略化しています。

ここで注目したいのは、「上がった」ことよりも、2年あまりで1.00%ぶん上がったという事実のほうです。金利がゼロ近辺にあるのが当たり前だった時代は、すでに終わっています。そして2026年7月の会合については、政策金利は1.00%程度で据え置かれる公算が大きいと報じられています。追加の利上げ時期については、10月や12月を見込む声があり、12月とする見方が最も多いとされます。

なお、この記事では日本銀行の政策判断そのものの是非には立ち入りません。扱うのは、金利が動いたときに金利差がどうなるか、という算術の部分だけです。

効き方その1:スワップが痩せる

日銀の利上げは、二つの方向から高金利通貨に効いてきます。一つ目が、スワップです。

受け取るスワップの原資は、その国と日本との金利差でした(この仕組みはスワップポイントとは何かで、金利差を二つの層に分けて考える枠組みは二層構造の金利差で扱っています)。ここで大事な考え方があります。日本が1.00%上がるということは、金利差の上では、相手国が1.00%利下げしたのと同じことです。南アフリカの中央銀行が何も決めていなくても、差は縮みます。

では、どれくらい縮んだのか? 3通貨を並べてみます。

通貨政策金利日本が0%だった頃の金利差日本が1.00%の今の金利差削られた割合
南アフリカランド7.00%7.00%6.00%約14%
メキシコペソ6.50%6.50%5.50%約15%
トルコリラ約37%約37%約36%約3%
※政策金利どうしの単純な差であり、実際のスワップは業者・時点によって前後します。「日本が0%だった頃」はマイナス金利解除前を指すおおまかな基準点です。

この表が示しているのは、同じ「高金利通貨」でも、削られ方はまるで違うということです。金利差がもともと大きいリラは、1.00%取られてもほとんど痛みません。一方、差が小さいペソやランドは、比率で見ると1割以上を持っていかれています。ひとくくりに「高金利通貨」と呼ばれているものが、日本側の一手で、バラバラに反応するわけです。3通貨がそれぞれ違う仕組みで動くことは高金利通貨を徹底比較でも扱いましたが、円側から見ても、その違いは表れます。

この効き方の性格は、遅いけれど確実です。一度縮んだ金利差は、日本銀行が金利を下げるか、相手国が利上げするまで戻りません。派手な値動きにはならず、毎日受け取る額が、少しずつ薄くなっていきます。

効き方その2:円高

もう一つの方向が、為替レートそのものです。

ランド円やペソ円といったクロス円は、ドル円を対ドルレートで割って決まります(この合成の仕組みはクロス円とは?で解説しました)。日本の利上げは、この計算の分子にあたるドル円を押し下げる方向に働きます。つまり、南アフリカやメキシコの側で何も悪いことが起きていなくても、円が強くなるだけでクロス円は下がるということです。

この効き方の性格は、スワップとは正反対で、速く、荒いものです。会合の結果が伝わった直後、数十分のうちに大きく動くこともあります。スワップが1年かけて積み上げる額を、1日の値動きが持っていくことも起こりえます。過去には、日本の利上げと米国の景気をめぐる懸念が重なり、円キャリー取引が一気に巻き戻された局面もありました(その仕組みは円キャリーの巻き戻しで扱っています)。

二方向がそろうと、どうなるか

ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。

スワップはゆっくり痩せていき、為替は一瞬で落ちる。原因はどちらも日本の利上げなのに、影響が出る速さがまるで違います。

具体的にどうなるか? コツコツ受け取ってきたスワップが、利上げ観測が強まった日の値動き一発で消えることがあります。そして厄介なのは、その後です。消えたあとも、金利差が縮んだぶん、取り返す速度は前より遅くなっています。収入が減っているところへ、一時金のような損失が乗る。だから日本の利上げは、高金利通貨にとって「受け取りが減る」話であると同時に、「取り返しにくくなる」話でもあります。

ただし、これは「だから売るべきだ」という話ではありません。金利差が縮んでも、なおスワップが付いていることに変わりはなく、どう付き合うかは資金や目的によって変わります。ここでお渡ししたいのは、自分の受け取りがどれだけ日本側に乗っているのかを把握しておく、という視点です。実際、日本の金利が1.00%になった今でも、南アフリカとの差は6.00%あります。減ったことは事実ですが、無くなったわけではありません。減り方の速さと、残っている厚み。その両方を見ておくことが、判断の材料になります。二方向が同時に来る日にどれだけ耐えられるかは、どれだけの下落幅に耐えられるかという別の物差しとも関わってきます。

会合の日、何を見ればいいのか

会合当日の見方を、手順として整理します。

一つ目は、決定そのものよりも、織り込みがどこまで進んでいたかを見ることです。7月の会合は据え置きの予想でほぼ一致しています。予想どおりに据え置きとなれば、材料としてはすでに消化済みで、大きくは動きにくい。むしろ相場が動くのは、予想と違うことが起きたときです。7月23日の南アフリカ準備銀行がそうでした。据え置きという決定にもかかわらず、利上げを織り込んでいた分が剥がれ落ち、ランドは対ドルで大きく下げています。

二つ目は、声明と総裁会見で、次をどう示したかを見ることです。金利を動かさなくても、次回以降への示唆が変われば相場は反応します。追加の利上げが10月なのか12月なのかで、これから先の金利差の見通しが変わるからです。

三つ目は、3通貨を横に並べることです。ランド円、ペソ円、リラ円がそろって同じ方向に動いたなら、原因は円側にあります。日銀の会合がある日は、まさにそれが起きやすい日です。

四つ目に、日付が決まっているイベントの前は、建玉を軽くしておくという考え方があります。会合の日程は何か月も前から公表されています。すべてのリスクは避けられませんが、日付が分かっているものだけでも構えておくことはできます。

その高金利は、どちらの国が作っているのか

最後に、一つ問いを置いておきます。いま受け取っているスワップは、相手国の金利が高いから受け取れているのでしょうか? それとも、日本の金利が低いから受け取れているのでしょうか?

おそらく答えは、その両方です。高金利通貨と付き合うということは、相手国の事情と日本の事情、その両方を同時に持つことにほかなりません。当サイトはこれまで、南アフリカ、メキシコ、トルコという相手国の側を掘り下げてきました。けれど原資の半分は、こちら側にあります。

金利差を二つの層に分けて考える枠組みは二層構造の金利差で、円という「もう半分の主役」がどう効くのかは円安は高金利通貨にどう効く?で扱っています。会合の日程は、あらかじめ分かっています。次にその日が来たとき、自分のスワップのどれだけが日本側に乗っているのかを思い出せれば、結果の受け取り方も変わってくるはずです。