先週は、三通貨が揃って2%前後下げました。同じ幅で動いたのだから動かしたのは円だ、と当レポートでは書きました。今週は、その下げ幅がばらけています。

ランド円が1.9%、リラ円が1.2%、ペソ円が1.1%。そしてドル円は0.7%です。円の分を差し引いても、まだ差が残ります。残った分は、三通貨それぞれの事情です。

ばらけさせたのは原油でした。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ)の順に見ていきます。今週は、この分類がそのまま下げ幅の順番になっています。

今週の三通貨(9/7〜9/11)

通貨ペア週末終値の目安対ドルの水準今週の主役
ランド円(ZAR/JPY)9.56円前後16.1ランド台資源を売る国が、資源高で売られた
ペソ円(MXN/JPY)9.11円前後16.9ペソ前後原油から最も遠い通貨として、傷が浅かった
リラ円(TRY/JPY)3.19円前後48リラ台TCMBは5会合続けて据え置き、理由に原油
※水準は週間のおおよそのレンジです。確定した日足の終値は、公開前にご利用のレート元でご確認ください。

先週末と比べると、ランド円は9.74円前後から9.56円前後へ、ペソ円は9.21円前後から9.11円前後へ、リラ円は3.23円前後から3.19円前後へ。ドル円は155.68円から154.65円です。

先週のレポートでは、下げ幅が揃っていたことを根拠に「動かしたのは3通貨ではなく円です」と書きました。今週は、その根拠が使えません。円の下げが0.7%で、ランド円の下げは1.9%。差の1.2%は円では説明がつきません。クロス円は「ドル円 ÷ その通貨の対ドル」の割り算なので、答えの動きが分子の動きより大きいときは、分母が動いています(この分け方はクロス円とは?で扱いました)。

分母の側、つまり対ドルの動きだけを並べると、こうなります。

先週末今週末向き
ドル円(分子)155.68円154.65円0.7%の円高
ドルランド15.98ランド16.18ランド1.2%のランド安
ドルリラ48.20リラ48.48リラ0.6%のリラ安
ドルペソ16.90ペソ16.98ペソ0.4%のペソ安
対ドルで最も売られたのはランドでした。三通貨のうち、資源を掘って売っている国はランドだけです。

資源が上がった週に、資源国の通貨が一番売られました。ここが今週の中心です。

円側:9月8日、一時152円台。半年ぶりの水準

週の前半は、先週からの円高がそのまま続きました。7日に155円を割り込み、8日の東京市場で一時152円台。155円割れも152円台も、どちらも今年2月以来の水準です。

理由は日銀の利上げ観測です。OIS市場が織り込む9月会合での0.25%利上げの確率は、96.8%まで上がりました。ほぼ全員が上げると見ている、という数字です。この%がアンケートではなく実際の取引から出ていることは、織り込み済みとは?で整理しました。

ただし、152円まで一気に届いた直接の理由は、観測そのものではありません。投機筋の円売り持ちは、9月1日の時点で売り越し87億ドルありました。7月末の介入前の9割を超える水準まで、ひと月あまりで積み直された量です。そこへ155円前後の損切りが重なり、下げが加速しています。悪い材料が新しく出たわけではなく、溜まっていたものが出口に向かった形です(この動き方は円キャリーの巻き戻しとは?、溜まった量の見方は投機筋のポジションとは?にまとめています)。

ところが週の後半、ドル円は154円台へ戻しています。米国の卸売物価が上振れ、そこにエネルギー価格の上昇が重なって、米国の長期金利が上がりました。円側の材料と、ドル側の材料が、週の前半と後半で入れ替わった一週間でした。

外(ランド):資源を売る国が、資源高で売られた

9月10日、ブレント原油が4%上がって105ドル台をつけました。ホルムズ海峡と紅海での船舶への攻撃が、イランとの戦争が始まって以来の規模になったためです。8月初めの安値からは、30%を超える上昇になります。

同じ日、南アフリカ準備銀行が4〜6月期の経常収支を発表しました。2,055億ランドの赤字です。1〜3月期は1,816億ランドの黒字でしたから、ひと四半期で黒字から赤字へ振れたことになります。GDP比では、2.3%の黒字から2.6%の赤字へ。

2026年1〜3月期2026年4〜6月期
経常収支1,816億ランドの黒字2,055億ランドの赤字
GDP比2.3%の黒字2.6%の赤字
貿易収支4,288億ランドの黒字1,464億ランドの黒字
貿易黒字そのものは残っています。減った分を作ったのは、輸入額の増加でした。

準備銀行の説明では、モノとサービスの輸入額が3,766億ランド増えています。量も価格も上がりました。原油の輸入額だけを取り出すと、8割を超える伸びです。

南アフリカは、金とプラチナと石炭を掘って売る国です。そして原油は、この国からは出てきません。必要な量はほぼ買っています。買っている相手はナイジェリア、サウジアラビア、オマーン。湾岸から来る分は、ホルムズ海峡を通ります。今週攻撃が起きたのは、その海峡でした。売る資源と買う資源が別だという話は原油が上がると、なぜランドとリラは弱くなるのかで、稼ぎが国に残るかどうかは南アフリカの経常収支とは?で扱いました。

売る側の資源はどうだったかというと、こちらは下がっています。金は週間で2%近く下げ、3週続けての下落です。11日には8月6日以来の安い水準で取引が始まりました。

買う資源が3割上がり、売る資源が3週続けて下がる。ランドにとって、今週は両側から挟まれた週でした。国内の統計も重なっています。7月の鉱業生産は前年同月比で7.5%の減少。市場の想定は2.8%の減少でしたから、倍以上の落ち込みです。製造業は1.1%の増加でしたが、こちらは掘る側ではありません。

「資源通貨」という呼び方は、こういう週に崩れます。呼び方が間違っているのではなく、売る資源と買う資源を一語にまとめているから崩れます。

隣(ペソ):原油から最も遠いことが、今週は効いた

ペソは対ドルで0.4%の下落にとどまり、三通貨の中で最も傷が浅い一週間でした。11日には0.13%上げて16.966ペソ。52週間の高値16.89ペソが、まだ視野に入る場所にいます。

ここで注意したいのは、原油高がペソを支えたわけではないことです。メキシコは産油国ですが、輸出に原油が占める割合は5%台にとどまります。主役は自動車や電機で、原油が上がっても輸出全体を持ち上げる力は限られます(この構図はメキシコは産油国なのに、なぜ石油がペソを支えないのか?で扱いました)。

支えたのは金利差の方です。Banxicoは政策金利6.50%で長めの据え置きを示しており、その差が株安の日でもペソを下支えしています。今週は現地株のIPC指数が5営業日のうち4営業日で下げましたが、ペソは逆に上げました。

つまりペソは、今週の主役だった原油の影響圏の外にいました。買う側でも、売る側としてでもありません。距離が遠かったから傷が浅かった、というだけです。USMCAの見直しという別の重しは、そのまま残っています。

中(リラ):TCMBは5会合続けて据え置き、理由に原油

9月10日、TCMB(トルコ中央銀行)は政策金利を37.00%で据え置きました。5会合続けての据え置きです。翌日物の貸出金利40.00%、借入金利35.50%も、あわせて維持されています。

先週のレポートでは、8月のインフレが31.51%まで下がったことで利下げの観測が出やすくなる、と書きました。実際、声明でも物価の基調は鈍化していると認めています。それでも動かさなかった理由として挙がったのが、原油高と地政学的な緊張でした。

トルコは、買う側そのものの国です。エネルギーと金を除けば経常収支は黒字になるのに、その二つで赤字になります。しかもエネルギーの値段は、産油国と中東情勢が決めます。原油が上がっている間、物価が下がりきる保証はありません。だから利下げは先に延びます。

リラを持っている側から見ると、この据え置きは悪い話ではありません。政策金利37%が残るということは、受け取るスワップの原資が当面そのまま残るということです(名目37%が実質で何%になるかはトルコリラの金利37%の“正体”とは?にまとめています)。リラ円は3.23円前後から3.19円前後へ、対ドルでは48リラ台で推移しました。

次回の会合は10月22日です。年内に残るのは、そこと12月10日の2回になります。

スワップ・キャリーのメモ:同じ原油が、金利とレートで逆を向く

今週のTCMBは、原油高がスワップにどう届くかの実例になりました。

燃料が物価を押し上げれば、中央銀行は利下げに動きにくくなります。政策金利が高いまま置かれる分、受け取るスワップはすぐには細りません。一方で、輸入の支払いは膨らみ、経常収支は悪くなります。レートは下を向きやすくなります。

今週はその両方が、別々の国で同時に出ました。トルコでは金利が守られる側に出て、南アフリカでは経常収支が悪くなる側に出ています。原油のニュースを「高金利通貨に逆風」と一行にまとめにくいのは、このためです。

もう一つ、米国の物価も整理しておきます。11日に発表された8月の消費者物価は、前年同月比3.4%、前月比0.4%。どちらも市場予想どおりでした。食品とエネルギーを除いたコアは前月比0.3%と、予想を0.1ポイント上回っています。

中身を見ると、ガソリンが前月比3.9%、前年同月比では27.4%の上昇です。統計局の説明では、この項目だけで全体の月間上昇の3分の1以上を占めました。米国の物価にも、今週の原油が入っています。

結果として、9月のFOMCで利上げを織り込む確率は7割前後まで上がりました。先週末の時点では58%です。当レポートでこの数字を追ってきた順に並べると、8月末が57%、9月初めに52%、9月4日で58%、そして今週末が7割前後です。上がったり下がったりしながら、少しずつ利上げ寄りに寄っています。

来週の注目ポイント

結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?

今週一番確かめておきたいのは、下げ幅の差の方です。

先週は三つが同じだけ下げました。今週は、ランド円が1.9%でペソ円が1.1%です。円建ての数字だけを見ていると、どちらの週も「下がった」で終わります。けれど中身は逆で、先週は円の話、今週は通貨の話でした。

見分ける手は一つで足ります。ドル円の下げ幅と、持っている通貨の円建ての下げ幅を並べることです。同じなら円、違えばその差が通貨側です。今週なら、1.9%から0.7%を引いた1.2%が南アフリカの話でした。その1.2%の中身が、原油と経常収支だったことになります。

そしてもう一つ。ランドは資源国の通貨ですが、今週は資源が上がって売られました。売っている資源と買っている資源が違うからです。「資源通貨だから資源高で強い」という一行は、どの資源のことを言っているのかを決めないと使えません。原油が105ドルにいる間は、この区別が残ります。