先週は、三通貨が揃って2%前後下げました。同じ幅で動いたのだから動かしたのは円だ、と当レポートでは書きました。今週は、その下げ幅がばらけています。
ランド円が1.9%、リラ円が1.2%、ペソ円が1.1%。そしてドル円は0.7%です。円の分を差し引いても、まだ差が残ります。残った分は、三通貨それぞれの事情です。
ばらけさせたのは原油でした。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ)の順に見ていきます。今週は、この分類がそのまま下げ幅の順番になっています。
- 9月8日、ドル円は一時152円台へ。2月中旬以来、およそ半年ぶりの円高水準です
- 9月10日、ブレント原油が105ドル台。8月初めの安値からは30%を超える上昇です
- 同じ10日、南アフリカの4〜6月期の経常収支が黒字から赤字へ転じました。原油の輸入代金が膨らんだためです
今週の三通貨(9/7〜9/11)
| 通貨ペア | 週末終値の目安 | 対ドルの水準 | 今週の主役 |
|---|---|---|---|
| ランド円(ZAR/JPY) | 9.56円前後 | 16.1ランド台 | 資源を売る国が、資源高で売られた |
| ペソ円(MXN/JPY) | 9.11円前後 | 16.9ペソ前後 | 原油から最も遠い通貨として、傷が浅かった |
| リラ円(TRY/JPY) | 3.19円前後 | 48リラ台 | TCMBは5会合続けて据え置き、理由に原油 |
先週末と比べると、ランド円は9.74円前後から9.56円前後へ、ペソ円は9.21円前後から9.11円前後へ、リラ円は3.23円前後から3.19円前後へ。ドル円は155.68円から154.65円です。
先週のレポートでは、下げ幅が揃っていたことを根拠に「動かしたのは3通貨ではなく円です」と書きました。今週は、その根拠が使えません。円の下げが0.7%で、ランド円の下げは1.9%。差の1.2%は円では説明がつきません。クロス円は「ドル円 ÷ その通貨の対ドル」の割り算なので、答えの動きが分子の動きより大きいときは、分母が動いています(この分け方はクロス円とは?で扱いました)。
分母の側、つまり対ドルの動きだけを並べると、こうなります。
| 先週末 | 今週末 | 向き | |
|---|---|---|---|
| ドル円(分子) | 155.68円 | 154.65円 | 0.7%の円高 |
| ドルランド | 15.98ランド | 16.18ランド | 1.2%のランド安 |
| ドルリラ | 48.20リラ | 48.48リラ | 0.6%のリラ安 |
| ドルペソ | 16.90ペソ | 16.98ペソ | 0.4%のペソ安 |
資源が上がった週に、資源国の通貨が一番売られました。ここが今週の中心です。
円側:9月8日、一時152円台。半年ぶりの水準
週の前半は、先週からの円高がそのまま続きました。7日に155円を割り込み、8日の東京市場で一時152円台。155円割れも152円台も、どちらも今年2月以来の水準です。
理由は日銀の利上げ観測です。OIS市場が織り込む9月会合での0.25%利上げの確率は、96.8%まで上がりました。ほぼ全員が上げると見ている、という数字です。この%がアンケートではなく実際の取引から出ていることは、織り込み済みとは?で整理しました。
ただし、152円まで一気に届いた直接の理由は、観測そのものではありません。投機筋の円売り持ちは、9月1日の時点で売り越し87億ドルありました。7月末の介入前の9割を超える水準まで、ひと月あまりで積み直された量です。そこへ155円前後の損切りが重なり、下げが加速しています。悪い材料が新しく出たわけではなく、溜まっていたものが出口に向かった形です(この動き方は円キャリーの巻き戻しとは?、溜まった量の見方は投機筋のポジションとは?にまとめています)。
ところが週の後半、ドル円は154円台へ戻しています。米国の卸売物価が上振れ、そこにエネルギー価格の上昇が重なって、米国の長期金利が上がりました。円側の材料と、ドル側の材料が、週の前半と後半で入れ替わった一週間でした。
外(ランド):資源を売る国が、資源高で売られた
9月10日、ブレント原油が4%上がって105ドル台をつけました。ホルムズ海峡と紅海での船舶への攻撃が、イランとの戦争が始まって以来の規模になったためです。8月初めの安値からは、30%を超える上昇になります。
同じ日、南アフリカ準備銀行が4〜6月期の経常収支を発表しました。2,055億ランドの赤字です。1〜3月期は1,816億ランドの黒字でしたから、ひと四半期で黒字から赤字へ振れたことになります。GDP比では、2.3%の黒字から2.6%の赤字へ。
| 2026年1〜3月期 | 2026年4〜6月期 | |
|---|---|---|
| 経常収支 | 1,816億ランドの黒字 | 2,055億ランドの赤字 |
| GDP比 | 2.3%の黒字 | 2.6%の赤字 |
| 貿易収支 | 4,288億ランドの黒字 | 1,464億ランドの黒字 |
準備銀行の説明では、モノとサービスの輸入額が3,766億ランド増えています。量も価格も上がりました。原油の輸入額だけを取り出すと、8割を超える伸びです。
南アフリカは、金とプラチナと石炭を掘って売る国です。そして原油は、この国からは出てきません。必要な量はほぼ買っています。買っている相手はナイジェリア、サウジアラビア、オマーン。湾岸から来る分は、ホルムズ海峡を通ります。今週攻撃が起きたのは、その海峡でした。売る資源と買う資源が別だという話は原油が上がると、なぜランドとリラは弱くなるのかで、稼ぎが国に残るかどうかは南アフリカの経常収支とは?で扱いました。
売る側の資源はどうだったかというと、こちらは下がっています。金は週間で2%近く下げ、3週続けての下落です。11日には8月6日以来の安い水準で取引が始まりました。
買う資源が3割上がり、売る資源が3週続けて下がる。ランドにとって、今週は両側から挟まれた週でした。国内の統計も重なっています。7月の鉱業生産は前年同月比で7.5%の減少。市場の想定は2.8%の減少でしたから、倍以上の落ち込みです。製造業は1.1%の増加でしたが、こちらは掘る側ではありません。
「資源通貨」という呼び方は、こういう週に崩れます。呼び方が間違っているのではなく、売る資源と買う資源を一語にまとめているから崩れます。
隣(ペソ):原油から最も遠いことが、今週は効いた
ペソは対ドルで0.4%の下落にとどまり、三通貨の中で最も傷が浅い一週間でした。11日には0.13%上げて16.966ペソ。52週間の高値16.89ペソが、まだ視野に入る場所にいます。
ここで注意したいのは、原油高がペソを支えたわけではないことです。メキシコは産油国ですが、輸出に原油が占める割合は5%台にとどまります。主役は自動車や電機で、原油が上がっても輸出全体を持ち上げる力は限られます(この構図はメキシコは産油国なのに、なぜ石油がペソを支えないのか?で扱いました)。
支えたのは金利差の方です。Banxicoは政策金利6.50%で長めの据え置きを示しており、その差が株安の日でもペソを下支えしています。今週は現地株のIPC指数が5営業日のうち4営業日で下げましたが、ペソは逆に上げました。
つまりペソは、今週の主役だった原油の影響圏の外にいました。買う側でも、売る側としてでもありません。距離が遠かったから傷が浅かった、というだけです。USMCAの見直しという別の重しは、そのまま残っています。
中(リラ):TCMBは5会合続けて据え置き、理由に原油
9月10日、TCMB(トルコ中央銀行)は政策金利を37.00%で据え置きました。5会合続けての据え置きです。翌日物の貸出金利40.00%、借入金利35.50%も、あわせて維持されています。
先週のレポートでは、8月のインフレが31.51%まで下がったことで利下げの観測が出やすくなる、と書きました。実際、声明でも物価の基調は鈍化していると認めています。それでも動かさなかった理由として挙がったのが、原油高と地政学的な緊張でした。
トルコは、買う側そのものの国です。エネルギーと金を除けば経常収支は黒字になるのに、その二つで赤字になります。しかもエネルギーの値段は、産油国と中東情勢が決めます。原油が上がっている間、物価が下がりきる保証はありません。だから利下げは先に延びます。
リラを持っている側から見ると、この据え置きは悪い話ではありません。政策金利37%が残るということは、受け取るスワップの原資が当面そのまま残るということです(名目37%が実質で何%になるかはトルコリラの金利37%の“正体”とは?にまとめています)。リラ円は3.23円前後から3.19円前後へ、対ドルでは48リラ台で推移しました。
次回の会合は10月22日です。年内に残るのは、そこと12月10日の2回になります。
スワップ・キャリーのメモ:同じ原油が、金利とレートで逆を向く
今週のTCMBは、原油高がスワップにどう届くかの実例になりました。
燃料が物価を押し上げれば、中央銀行は利下げに動きにくくなります。政策金利が高いまま置かれる分、受け取るスワップはすぐには細りません。一方で、輸入の支払いは膨らみ、経常収支は悪くなります。レートは下を向きやすくなります。
今週はその両方が、別々の国で同時に出ました。トルコでは金利が守られる側に出て、南アフリカでは経常収支が悪くなる側に出ています。原油のニュースを「高金利通貨に逆風」と一行にまとめにくいのは、このためです。
もう一つ、米国の物価も整理しておきます。11日に発表された8月の消費者物価は、前年同月比3.4%、前月比0.4%。どちらも市場予想どおりでした。食品とエネルギーを除いたコアは前月比0.3%と、予想を0.1ポイント上回っています。
中身を見ると、ガソリンが前月比3.9%、前年同月比では27.4%の上昇です。統計局の説明では、この項目だけで全体の月間上昇の3分の1以上を占めました。米国の物価にも、今週の原油が入っています。
結果として、9月のFOMCで利上げを織り込む確率は7割前後まで上がりました。先週末の時点では58%です。当レポートでこの数字を追ってきた順に並べると、8月末が57%、9月初めに52%、9月4日で58%、そして今週末が7割前後です。上がったり下がったりしながら、少しずつ利上げ寄りに寄っています。
来週の注目ポイント
- FOMC(9月15〜16日):確率は7割前後。上げても上げなくても、値段に入っていた分との差で動きます
- 日銀会合(9月17〜18日):OISの織り込みは96.8%。三通貨のスワップに直接届くのは、この会合の方です。政策金利が1.0%から1.25%へ動けば、金利差はその分だけ縮みます
- 南アフリカの8月の消費者物価(9月中旬):原油が切り上げた分が、燃料と輸送を通じてどこまで物価に回ったのか。SARBが23日に何を見るかは、ここで決まります
- ブレント原油と105ドル:攻撃が続けば、南アフリカとトルコの輸入代金はさらに膨らみます。逆に落ち着けば、今週の下げ幅の差も縮みます
- 152円を割るかどうか:投機筋の円売りが一度整理された後で、どこまで戻すのか。日銀の当日まで、観測だけで動きやすい期間が続きます
結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?
今週一番確かめておきたいのは、下げ幅の差の方です。
先週は三つが同じだけ下げました。今週は、ランド円が1.9%でペソ円が1.1%です。円建ての数字だけを見ていると、どちらの週も「下がった」で終わります。けれど中身は逆で、先週は円の話、今週は通貨の話でした。
見分ける手は一つで足ります。ドル円の下げ幅と、持っている通貨の円建ての下げ幅を並べることです。同じなら円、違えばその差が通貨側です。今週なら、1.9%から0.7%を引いた1.2%が南アフリカの話でした。その1.2%の中身が、原油と経常収支だったことになります。
そしてもう一つ。ランドは資源国の通貨ですが、今週は資源が上がって売られました。売っている資源と買っている資源が違うからです。「資源通貨だから資源高で強い」という一行は、どの資源のことを言っているのかを決めないと使えません。原油が105ドルにいる間は、この区別が残ります。

