今週の主役は、円でした。ドル円は8月末の160円台から、9月3日に155円台まで下げています。2日で5円前後の円高です。三通貨は円建てでいずれも水準を切り下げました。

ただし、中身は先週までと逆です。この数か月、当レポートでは「円安が対ドルの弱さを覆い隠している」と繰り返し書いてきました。今週はその円安が反転し、覆い隠している物が外れました。ランドは対ドルで強くなったのに、ランド円は下がっています。

外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ)の順に見たうえで、最後に金曜の米雇用統計を整理します。

今週の三通貨(8/31〜9/4)

通貨ペア週末終値の目安対ドルの水準今週の主役
ランド円(ZAR/JPY)9.74円前後16.0ランド台対ドルで買われたが、円高に打ち消される
ペソ円(MXN/JPY)9.21円前後16.9ペソ前後米加の関税摩擦の中で、原産地規則が支える
リラ円(TRY/JPY)3.23円前後48リラ台インフレは31.51%へ、減価は続く
※水準は週間のおおよそのレンジです。確定した日足の終値は、公開前にご利用のレート元でご確認ください。

三通貨とも、円建てでは先週から下げました。ランド円は9.9円前後から9.74円前後へ、ペソ円は9.4円前後から9.21円前後へ、リラ円は3.32円前後から3.23円前後へ。下げ幅の比率は、どれも2%前後で揃っています。

三つが同じ幅で動いたなら、動かしたのは3通貨ではなく円です。クロス円は「ドル円 ÷ その通貨の対ドル」という割り算で決まります。分子が2%以上下がれば、分母の側で何が起きていても、円建ての数字は下がります(この分け方はクロス円とは?で扱いました)。

円側:日銀の利上げ観測が、2日で5円動かした

9月3日、ドル円は終値ベースで1.8%ほど下げ、155円30銭前後まで円高が進みました。前日比で3円を超えて下げる場面もあり、直近2日間では5円前後の下落です。翌4日の東京市場では一時155円29銭と8月3日以来の安値をつけ、その後156円40銭台へ切り返しています。

理由は二つあります。日銀の利上げ観測が加速したことと、FRBの利上げ期待がいったん後退したことです。先週の時点で、9月会合での日銀の利上げは8割程度織り込まれていました。今週はそこに、日本の長期金利の動きが重なります。4日には10年債利回りが一時2.9%を下回りました。

その2日前、2日には米国の長期金利が一時4.8%台前半と、2年10か月ぶりの高い水準をつけています。日米の長期金利は、週の前半と後半で逆方向に動きました。金利差が縮む向きの材料が、続けて出た形です。

先週のレポートの最後に、日銀の利上げで円安が反転するなら覆い隠されていたものが表に出る、と書きました。次回の日銀会合は9月17〜18日で、まだ結果は出ていません。それでも観測だけで5円動いています。決定そのものより、決定がどこまで値段に入っているかで動くのが為替です(この見方は織り込み済みとは?にまとめています)。

外(ランド):対ドルで強くなったのに、ランド円は下がった

今週のランドは、教科書のような形になりました。

先週末、ランドの対ドルは16.15ランドでした。今週は16.0ランド台まで戻しています。ドルランドの数字が小さくなるのは、ランドが強くなったときです。背景はドル安と、金価格の上昇です。前回書いた通り、7月のインフレが4.3%まで下がって実質金利が約2.7%まで厚くなった状態は続いています(参考:ランド円の金利を決めるSARBとは?)。

ところが、ランド円は9.9円前後から9.74円前後へ下げました。ランドは買われたのに、円建てでは下がっています。

先週末今週末向き
ドル円(分子)160円台155円台約3%の円高
ドルランド(分母)16.15ランド16.0ランド台約1%のランド高
ランド円9.9円前後9.74円前後下落
分子と分母がどちらも下がり、分子の下げ幅が大きかったため、割り算の答えは下がりました。

これまで当レポートで書いてきたのは、この逆の形でした。ランドが対ドルで売られているのに、円安のおかげでランド円が保たれている。だから「円安が対ドルの弱さを覆い隠している」と書いてきたわけです。

今週は、円高がランドの強さを覆い隠しました。同じ仕組みが、逆向きに働いただけです。南アフリカで起きた良いことを見ていた人ほど、口座の数字とのずれに戸惑う週だったかもしれません。

隣(ペソ):米加の関税摩擦が、ペソには追い風になっている

ペソ円は9.4円前後から9.21円前後へ。対ドルでは16.9ペソ前後で、8月14日につけた2024年6月以来のペソ高圏を保っています。

8月22日、米国はカナダ製品に50%の関税を発動し、カナダも報復に動きました。北米の中で摩擦が起きているわけですが、USMCAの原産地規則を満たすメキシコ製品は優遇の対象として残っています。同じ北米でも、カナダとメキシコで扱いが分かれた形です。

ペソにとっての「アメリカ次第」は、悪材料としてだけ働くわけではありません。今回のように、隣が叩かれることで相対的に有利になる場面もあります。ペソが数か月にわたって新興国通貨の中で最も底堅い理由の一つが、ここにあります(この構造はペソを動かす「対米リスク」とは?で扱いました)。

ただし、買われてきた分だけ、崩れるときの幅も大きくなります。USMCAの交渉が長引けば、この追い風は簡単に向きを変えます。

中(リラ):インフレは31.51%、ただし前月比は上がっている

9月3日、トルコの8月の消費者物価が発表されました。前年同月比で31.51%。7月の31.75%から下がり、市場予想の31.62%も下回っています。報道では「ディスインフレが続いた」と書かれる数字です。

ここで、前月比も並べてみます。

前年同月比前月比
2026年7月31.75%1.78%
2026年8月31.51%(下がった)1.84%(上がった)
同じ月の同じ統計から、二つの向きが出ています。市場予想は前年同月比31.62%、前月比1.93%でした。

前年同月比は下がり、前月比は上がりました。矛盾ではありません。前年同月比は去年の同じ月と比べた数字なので、去年が高ければ、今年の物価が横ばいでも数字は下がります。今の勢いが出るのは前月比の方です(この読み方はディスインフレとは?に整理しました)。

月1.84%のペースが1年続けば、単純に積み上げても年24%を超えます。31.51%という数字が下がり続けても、物価そのものは上がり続けている。リラの減価が止まらない理由は、ここにあります。リラ円は3.32円前後から3.23円前後へ、対ドルでは48リラ台で推移しました。

TCMB(トルコ中央銀行)の次回会合は9月10日です。インフレの低下が続いていることで、利下げの観測は出やすくなります。ただし利下げは、リラを持つ側から見ればスワップの原資が減るという話でもあります(参考:トルコの実質金利とスワップ)。

スワップ・キャリーのメモ:織り込みが52%から58%へ動いた日

金曜の米雇用統計が、今週で最も分かりやすい実例になりました。

8月の非農業部門雇用者数は16.2万人の増加。市場予想を10万人以上、上回りました。さらに前の2か月分が合計で5.5万人、上方に修正されています。数字としては、はっきりと強い内容です。

ドル円は発表前の156円ちょうど付近から、直後に156円70銭台まで0.7円ほど急騰しました。ところがその急騰は短時間で巻き戻され、155円台へ一段安となっています。強い数字が出て、ドルは買われ、そしてすぐ売り戻されました。

この間、9月のFOMCでの利上げを織り込む確率は、発表前の52%前後から58%へ上がっています。先週のジャクソンホール直後は57%でした。つまり週の前半でいったん52%まで下がり、雇用統計で57%の水準へ戻した、という一週間だったことになります。

ここが、確率という数字の使いどころです。52%から58%への6ポイントの上げは、「利上げがほぼ決まった」という意味ではありません。半々だったものが、少し利上げ寄りに傾いた、というだけです。それに対してドル円は0.7円動いて、すぐ戻しました。材料の大きさと値動きの大きさは、必ずしも比例しません(雇用統計が三通貨に届く道は米雇用統計はなぜ高金利通貨を動かすのか?にまとめています)。

そして、円で高金利通貨を持つ立場からは、9月の予定がそのまま日程表になります。10日にTCMB、15〜16日にFOMC、17〜18日に日銀、23日にSARB、24日にBanxico。日銀はFOMCの翌日から始まります。このうち、受け取るスワップに直接届くのは日銀です。政策金利が1.0%から1.25%へ動けば、金利差はその分だけ縮みます(スワップの仕組みはスワップポイントとは何かで解説しています)。

来週の注目ポイント

結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?

今週一番確かめておきたいのは、自分が見ている数字が、どちらの側の話なのかということです。

ランドは対ドルで買われました。南アフリカのインフレは落ち着き、実質金利は厚いままです。国内の材料だけを見れば、今週は良い週でした。それでもランド円は下がっています。理由は南アフリカにはなく、円にありました。

これは、当レポートがずっと書いてきたことの裏側です。円安の間は、対ドルの弱さが見えませんでした。円高になれば、対ドルの強さも見えなくなります。円建てで持つというのは、その通貨の話と円の話を、一本の線に混ぜて見るということです。

日銀の会合は9月17〜18日で、まだ2週間あります。今週の5円は、その決定ではなく、観測だけで動いた分です。決まったときに残っている分がどれだけあるのかは、決まってみないと分かりません。ただ、観測の段階でこれだけ動いたという事実は、頭に入れておく価値があります。