高金利通貨のチャートを長い期間で眺めていると、ある考えが浮かびます。ランド円は数十年かけて水準を下げてきましたし(ランド暴落の歴史を参照)、トルコリラにいたっては下がり続けている通貨です(トルコリラとは?で扱いました)。

下がり続けてきた通貨なら、買うのではなく売って持てばいいのではないか。

方向としては、決して的外れな発想ではありません。ところが、売った瞬間から毎日引かれるものがあります。それがマイナススワップです。

スワップには、受け取る側と払う側がある

高金利通貨を買って持つと、金利差の分を毎日受け取れます。これがスワップポイントです(発生する条件やロールオーバーの仕組みはスワップポイントとは何かで扱いました)。

同じ通貨ペアを売って持つと、スワップの向きが逆になります。高い金利の通貨を売って、低い金利の通貨を買っている状態になるので、金利差の分を毎日払うことになります。これがマイナススワップ、または支払いスワップと呼ばれるものです。取引のたびに一度だけ引かれるスプレッドとは違い、持っている限り毎日発生します。

買って持つ売って持つ
毎日のスワップ受け取る払う
待つほど積み上がる目減りする
怖い場面急落急騰
※実際の金額は、業者・通貨ペア・時点によって変わります。

19年で96%と、年36%と

では、実際の数字で考えてみます。

トルコリラ円は、2007年10月に1リラ=99円台をつけていました。それが2026年には約3.4円です。19年間で、対円の価値の約96%が失われたことになります(この経緯はトルコリラ暴落の歴史にまとめています)。

これほど一方向に下げてきた通貨であれば、売り持ちで待っていれば取れそうに見えます。

ところが、そのリラを売って持つと、日本との金利差を払う側に回ります。その金利差は、いま約36%です。トルコの政策金利は37%、日本は1.00%で、その差がスワップの原資になります(この金利差を受け取る側から見た記事が日銀が利上げしたら、ランド円・ペソ円・リラ円はどうなる?です)。

19年かけて96%下がった通貨を、年36%を払いながら待つ。これが、リラ円を売り持ちにするということの中身です。19年という時間をかけて失われた価値に対して、支払いは毎年発生します。二つの数字を並べてみると、下げ幅が支払いを上回るとは言い切れないことが見えてきます。

方向が当たっていても、利益が残らない場面がある。これは、売りという選択肢が使えないという意味ではありません。短い期間で大きく下げる場面を取りにいくなら、支払いが積み上がる前に決着します。問題になるのは、長期の下落を根拠にして、長く持ち続けようとしたときです。下げ方が緩やかであるほど、待つ日数が増え、支払いも増えていきます。

高い金利は、下がることへの対価

なぜ、こうなるのでしょうか。

高いスワップは、その通貨が下がることへの対価という性格を持っています。市場がこの先の下落を見込んでいるからこそ、高い金利が付いている。当サイトでは買い手の側から、受け取ったスワップと下落による損失は長い目で見れば打ち消し合う、と書いてきました(トルコリラの金利37%の“正体”とは?を参照)。

売り手は、この対価を払う側に回ります。買い手が下落のリスクを引き受ける代わりに金利を受け取るなら、売り手は下落の利益を受け取る代わりに金利を払う。どちらか一方が得をする形には、そもそもなっていません。

これが、下がり続けている通貨があるのに、誰もそれを売りっぱなしにしていない理由でもあります。下落が誰の目にも明らかな通貨ほど、その下落を待つための金利は高くなります。

長期で下げている通貨でも、1年単位では上がる

もう一つ、売り持ちで見落とされやすい点があります。長期で水準を下げてきた通貨が、1年単位では上がっていることがあるということです。

南アフリカランドは、数十年をかけて対円で水準を切り下げてきました。ところが直近1年で見ると、逆に上げています。2025年の夏に8円台前半だったランド円は、2026年7月末には9円台半ばまで戻しました。ランド側では金価格の高騰が効き、円側では円安が重なった局面です。

売り持ちにしていた場合、この期間はどうなるか。下落益は得られず、それでも支払いは毎日続きます。方向が逆に出ている間も、コストだけは変わらず積み上がるわけです。長期の方向が正しくても、その途中には何年も逆行する期間がありえます。

さらに、高金利通貨は下げるときも速い一方、戻すときも速く動きます。急な戻りに対して、逆行したポジションが強制的に決済されることもあります(この仕組みは強制ロスカットとは?を参照)。買って持つ人が急落を警戒するように(ランド円はなぜ急落するのかで扱いました)、売って持つ人は急騰を警戒することになります。

通貨いまの金利差長期の姿売りで狙うときの論点
リラ円約36%19年で約96%下落下げ幅より、払う側の大きさが勝ちやすい
ランド円6.00%数十年かけて水準を下げてきた直近1年は対円で上昇。方向が続く保証はない
ペソ円5.50%下がり続けてはいないそもそも「下がる前提」が置きにくい
※金利差は政策金利どうしの単純な差(日本1.00%との差)で、実際のスワップは業者・時点によって前後します。長期の姿は過去の方向についての説明で、将来を約束するものではありません。

三つを並べると、「下がり続けている通貨だから売る」という発想が成り立つかどうかは、通貨によって分かれることが分かります。

支払いが増える日と、自分の口座で確かめる手順

実務的な話を二つ加えておきます。

一つは、支払いが3日分まとめて発生する日があることです。土日は取引がないためスワップが付かず、その分は平日のどこかでまとめて処理されます。買って持っている人にとっては3日分まとめて受け取れる日ですが、売って持っている人にとっては、3日分をまとめて払う日になります。カレンダー上の日数は同じでも、支払いのタイミングは均等ではありません。

もう一つは、買いと売りで金額が違うことがあるという点です。業者がカバー取引にかかるコストを乗せるためですが、買いの受取額と売りの支払額を同じ額に設定している業者もあります。扱いは業者によって違うので、一般論では判断できません。

そのうえで、自分の口座で確かめる手順は三つです。一つ目に、同じ通貨ペアの買いスワップと売りスワップを並べて見ます。二つ目に、その二つが同じ額か、差が付いているかを確かめます。三つ目に、払う額に想定している保有日数を掛けて、狙っている値幅と比べます。一週間で決着をつけるつもりなのか、数か月持つつもりなのかで、負担する総額はまるで変わります。

なお、日本の金利が上がって金利差が縮めば、この支払いは軽くなります。同じ変化が、買いには不利に、売りには有利に働きます。

向きを変えると、コストも向きを変える

高金利通貨を買っても売っても、スワップと値動きの打ち消し合いからは逃げられません。買えば、受け取ったスワップを下落が削ります。売れば、下落で得た分を毎日の支払いが削ります。どちらから来るかが違うだけで、一方だけが得をする構造にはなっていません。

短期間に大きく下げる場面を取りにいくなら、支払いが積み上がる前に決着します。一方、長期の下落を根拠に売り持ちで待つ場合は、19年で96%と年36%のような、二つの数字を並べる作業が要ります。下がり続けている通貨を見つけたとき、方向を当てることと、そこから利益を残すことは、別の作業になります。