今週の材料は、ほとんど原油一つでした。ホルムズ海峡をめぐる合意の期限が8月17日に延長されないまま切れ、ブレント原油は88ドル台から週末には94ドル台へ。週間では5%を超える上昇で、2週続けての上げになります。

そして8月19日、南アフリカの7月のインフレ率が4.3%へ鈍化したと発表されました。6月の5.0%は2年ぶりの高さでしたから、そこからの反転です。市場予想の4.5%も下回りました。今週で一番良い数字と、今週で一番強い材料が、同じ週に並んだことになります。

ただし、この二つは同じ時間を指していません。統計が映しているのは燃料が下がっていた7月で、相場が動いているのは反転したあとの8月です。同じ原油の反転が、三つの通貨に別々の速さで届いた一週間でした。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ)の順に見ていきます。

今週の三通貨(8/17〜21)

通貨ペア週末終値の目安対ドルの水準今週の主役
ランド円(ZAR/JPY)9.92円前後16.0ランド台インフレ鈍化と金高で高値圏を更新
ペソ円(MXN/JPY)9.33〜9.35円16.9ペソ台議事要旨が示した長い据え置き
リラ円(TRY/JPY)3.31円前後48.0リラ台48台へ、最安値の更新が続く
※水準は週間のおおよそのレンジです。確定した日足の終値は、公開前にご利用のレート元でご確認ください。

円建てで見ると、今週動いたのはランド円だけでした。週初の9.82円前後から週末は9.92円前後へ。ペソ円は9.3円台の前半で横ばい、リラ円は3.32円から3.31円へわずかに水準を下げています。ドル円が159円をはさんだ狭い範囲にとどまった分、今週の差は通貨側でつきました。

円側:協調介入の下げ幅は、どこまで埋まったか

7月31日の日米協調介入から、3週間が経ちました。163円台後半という水準で日米の通貨当局が同時に円を買い、ドル円はその日のうちに155円台まで押し戻されました(参考:為替介入のしくみ)。その155円台から、今週は159円前後です。介入で押し戻した幅の大半が、3週間で埋まったことになります。

原油が上がって、米金利が反発した

週の入り口は、逆方向から始まりました。前週末の米小売売上高と消費者態度指数が弱く、ニューヨーク市場では景気の減速を意識したドル売りが加速して、ドル円は158.60円台まで下げています。ところが対イラン制裁と海峡の供給混乱への懸念で原油が反発すると、深夜にかけてドルが買い戻され、アジア時間の早い時間には159.39円台まで戻していました。

経路は単純です。エネルギーが上がれば物価は下がりにくくなり、利下げは遠のく。週の後半にも米国の長期金利は上昇し、それに沿ってドルの買い戻しが続きました。つまり今週の円安は、円が売られたというより、米金利がドルを引き上げた側面が大きいということになります。8月19日に公表されたFOMCの議事要旨(対象は7月28〜29日の会合)でも、据え置きの決定は9対3で、反対した3人はいずれも利上げを主張していました。なお、投機筋の円売りは介入のあとに大きく減ったまま、極端な積み上がりには戻っていません。売り方の建玉が薄いままでも、水準は戻ってきています。

日本側の数字は、利上げを止めるほど弱くはない

日本の材料も出ました。17日に発表された4〜6月期のGDPは、実質で前期比0.3%、年率にすると1.1%の成長です。3四半期続けてのプラスですが、中身を見ると国内需要はマイナスで、輸入の減少による外需が押し上げた形でした。21日の7月の全国消費者物価は、生鮮食品を除く総合が前年同月比1.8%。日銀が目標とする2%を、7か月続けて下回っています。

ただし、電気代と都市ガス代の下げ幅が縮み、エネルギーが8か月ぶりに上昇へ転じました。原油の反転は、日本の物価にも同じ月から入り始めています。成長は強くなく、物価も2%に届いていない。それでも市場は9月の利上げをほぼ織り込んでおり、政策金利1.0%の先を見ています。

外(ランド):4.3%が映しているのは、7月の燃料価格

ランドは今週も買われました。対ドルでは16.0ランド台まで水準を上げ、3月上旬以来の高値圏です。金が6月4日以来の高値をつけたことも支えになりました。円建てでは9.92円前後で、三通貨の中で今週は一番動いています。

材料は19日のインフレ統計でした。7月の消費者物価は前年同月比4.3%で、5か月ぶりの鈍化です。押し下げたのは燃料で、ガソリンは6月から7月にかけて7.1%、ディーゼルは11.7%下がりました。食品と非アルコール飲料の伸びも前年比0.9%と、16年以上さかのぼらないと見当たらない低さです。

ここが今週の分かれ目です。この4.3%は、燃料が下がっていた7月を対象にした数字です。その燃料の元になる原油は、8月に入って反転しました。19日に出た数字が良かったことと、同じ19日の原油が92ドル前後だったことは、並べて置かれていても別の月の話になります。海峡の緊張が南アフリカのガソリン価格に回ってくる経路は、原油と新興国通貨の記事で扱いました。今週は、その順番の前半だけが統計に出た形です。

SARB(南アフリカ準備銀行)の政策金利は7.00%、目標は3%(上下1%まで許容)です。4.3%は大きく下がったとはいえ、その許容の上限をまだ上回っています。次の会合は9月23日で、そこで見ることになるのは9月中旬に出る8月分の数字です。原油の反転が統計に入ってくるのは、その回からになります。

隣(ペソ):議事要旨が示した「長い据え置き」

ペソは対ドルで16.9ペソ台、円建てでは9.3円台の前半で、今週はほとんど動きませんでした。先週の17ペソ割れのあとの一服です。

材料は20日に公表されたBanxico(メキシコ中銀)の議事要旨でした。8月6日の会合は全員一致で6.50%の据え置き。7月前半のインフレ率は3.10%で、6月中旬の3.55%から下がっています。中央銀行は、物価が3%の目標に収まるのは2027年の第2四半期という見通しを維持しました。

数字だけを並べれば利下げの余地がありそうですが、議事要旨の中身は逆でした。多くの委員が、生産の水準はまだ本来の力を下回っていると認めたうえで、リスクは上向きだと述べています。貿易の混乱、地政学、サービス価格のしぶとさ、そしてペソが下げに転じる可能性。利下げを急がない理由の方が多いという整理です。市場はこれを「長い据え置き」と受け取りました。

据え置きが続けば、6.50%という金利はそのまま残ります。インフレが3%台の前半なら、物価を差し引いても手元に残る幅があるということです。今週のペソが静かだったのは材料が無かったからではなく、据え置きが続くという見方がそのまま確認されたからでした。

中(リラ):原油高が最も早く届く先

リラは対ドルで48リラ台に入りました。21日は前日から0.83%下げて48.07リラ。7月につけた47.2リラという最安値から、更新が続いています。円建てでは3.31円前後で、この1年では17%を超える下落です。

ランドが原油の反転を「来月の統計」で受け取るのに対して、トルコはその週のうちに受け取ります。トルコはエネルギーのおよそ75%を輸入に頼っています。原油が10ドル上がると経常赤字が45〜50億ドル増え、インフレを約1%ポイント押し上げるという試算があります。今週のブレントは、88ドル台から94ドル台へ動きました。

TCMB(トルコ中央銀行)の政策金利は37%で、4会合続けての据え置きです。名目では突出した高さですが、物価の伸びは7月時点で31.75%あります。引き算をしたあとに残る幅は、ランドやペソほど厚くありません。しかも原油高は、その引き算の相手であるインフレの側を押し上げます。次の会合は9月10日です。

スワップ・キャリーのメモ:数字を見たら、日付を見る

今週の三通貨は、同じ材料に対して反応の速さが違いました。整理すると、こうなります。

スワップ狙いで通貨を持つ場合、この順番は見ておけます。政策金利が動くのは会合の日だけですが、その判断材料になるのは統計で、統計が対象にしているのは前の月だからです。発表された数字が良かったかどうかと、その数字が対象にしている期間に何が起きていたかは、分けて見ておけます。

米国の雇用統計についても、似た話を先日の記事で扱いました。あちらは同じ月の数字があとから書き換わるという話で、こちらは発表された数字が映しているのは前の月だという話です。どちらも、発表の日と対象の期間がずれているところから来ています。

来週の注目ポイント

今週の数字は、いつの世界を写していたのか

今週は、良い数字と強い材料が同じ週に並びました。南アフリカのインフレは4.3%へ下がり、原油は94ドル台へ上がった。並べると噛み合っていないようですが、片方は7月の話で、もう片方は8月の話です。

三通貨の値動きも、この時間差でおおむね説明がつきます。原油の上昇をその週のうちに受け取るリラは48台へ下げ、来月の統計を通じて受け取るランドは、下がったあとの数字を見て買われました。円は米金利を経由して159円前後へ戻っています。同じ材料でも、届くまでの経路が違えば、出てくる向きまで変わります。

来週の統計を見るときは、見出しの数字と一緒に、その数字が何月分なのかを確かめておけます。今週のように、発表の日と対象の月とで、前提が入れ替わっていることがあります。