高金利通貨を円で持つ方法として、現地通貨建て債券・外貨建てMMF・外貨預金・FXの四つを並べたことがあります(トルコリラを債券・外貨預金・FXのどれで持つか)。その時は取り上げませんでしたが、五つ目に、投資信託があります。

取り上げなかった理由として、投資信託だけは、四つと組み立てが違います。他の四つは、中身がその通貨建ての何かでした。リラ建ての債券、リラ建てのMMF、リラの預金、リラを買う建玉です。投資信託には、通貨とは別に「中身の資産」がもう一つあります。

この記事では、実在する二本のファンドを用いて、その中身が何なのかを見ていきます。

「南アフリカランド・コース」に、南アフリカの資産は入っていない

資源ファンド(株式と通貨)南アフリカランド・コースという投資信託があります。運用しているのは日興アセットマネジメントで、設定は2009年7月31日です。

名前に南アフリカランドが入っていますが、株の投資先は世界の資源株です。投資そのものは米ドル建てで行われ、米国以外の取引所に上場している銘柄については、ADR(米国預託証書)を使います。

南アフリカの資産は入っていません。ランドは、為替取引の相手としてだけ乗っています。名前の「株式と通貨」は、そのことをそのまま言っています。中身が株式で、通貨がランドです。

ランドと資源の結びつき自体は、この通貨を見るときの土台にあるものです(ランドはなぜ「資源通貨」なのか)。ただし、このファンドが持っているのは南アフリカの資源企業ではありません。

中身が同じで、通貨だけ七通りに分かれていた

もう一本、日本株厳選ファンドを見ます。運用は三井住友DSアセットマネジメントです。こちらの中身は国内の株式で、割安と判断された銘柄を30〜60銘柄前後に絞って持ちます。

そのうえで、保有する円建て資産に対して、円を売って別の通貨を買う為替取引を行います。この「別の通貨」の部分が、コースとして分かれていました。円コース、ブラジルレアルコース、豪ドルコース、アジア3通貨コース、米ドルコース、メキシコペソコース、トルコリラコースの七本です。

中身の日本株は、どのコースでも同じです。違うのは上に乗っている通貨だけです。二本のファンドを並べると、名前と中身の関係が見えます。

ファンド中身の資産その資産の建て通貨為替取引の相手
資源ファンド(株式と通貨)南アフリカランド・コース世界の資源株米ドル南アフリカランド
日本株厳選ファンド・メキシコペソコース国内の株式30〜60銘柄メキシコペソ
※各運用会社の商品説明より(2026年9月時点)。日本株厳選ファンドのメキシコペソコースは2026年4月10日に償還されています。

三つの通貨をまとめて見るときは、それぞれの国の事情から入ることになります(高金利通貨を徹底比較)。ところがこの形の投資信託では、国の事情は通貨側にだけ関わっていて、中身の資産とは切り離されています。

二階に乗っているのは、FXのスワップと同じもの

この形の投資信託は「通貨選択型」と呼ばれます。交付目論見書では、収益の源が三つに分けて説明されます。投資対象資産の価格変動、為替ヘッジプレミアム、為替変動の三つです。

二つ目の為替ヘッジプレミアムは、交換する二つの通貨の金利差から出てきます。今のレートより将来取引するレートの方が有利になる場合、その差額がプレミアムです。反対に不利になる場合は、同じ差額がコストと呼ばれます。

円の政策金利は1.00%です。トルコは37%、南アフリカは7.00%、メキシコは6.50%(いずれも2026年8月時点)。円を売ってこれらの通貨を買う形にすると、金利差はプレミアムの側に出ます。

これは、FXで毎日受け取るスワップポイントと同じ場所から来ています(スワップポイントとは何か)。呼び名が違うだけで、源泉は二国の金利差です。

収益の源何で決まるかFXでいうと
投資対象資産の価格変動中身の株や債券の値段あたるものがない
為替ヘッジプレミアム二つの通貨の金利差スワップポイント
為替変動その通貨と円の交換レート建玉の含み損益
※通貨選択型ファンドの交付目論見書における一般的な区分にもとづきます。

一つ目だけが、FXに対応するものを持ちません。ここが二階建てになっている部分です。

分配金は、その三つのどこから出たのかを名乗らない

この形のファンドは、毎月決算のものが多くあります。資源ファンドの南アフリカランド・コースは毎月17日が決算日で、2025年11月17日から2026年8月17日までの10回は、いずれも1万口あたり3円でした。

日本株厳選ファンド・メキシコペソコースの分配金は、記録の最も古い2013年8月12日から毎月続きました。2024年8月13日から2026年3月10日までの20回は、すべて1万口あたり35円で同じです。

ここで、受け取る側から見て分かりにくい点が一つあります。分配金は、それが資産の値上がりから出たのか、金利差から出たのか、為替から出たのかを名乗りません。三つの階で起きたことが一つの金額になって出てきます。

もう一つ、分配金には二種類あります。運用で生じた利益から支払われるものが普通分配金で、こちらは課税されます。支払ったあとの基準価額が個別元本を下回る場合、その部分は元本払戻金(特別分配金)と呼ばれ、課税されません。自分の元本が戻ってきただけで、利益ではないという考え方によります。

そして分配金を出せば、出した分だけ基準価額は下がります。資源ファンドの南アフリカランド・コースの基準価額は、2026年9月8日で4,677円です。設定は2009年7月31日でした。この4,677円という数字には、値下がりした分と、これまで払い出してきた分配金の分の両方が入っています。基準価額だけを見て損得を判断することはできません。

受け取った現金をどこに置くかという問題は、FXのスワップでも同じ形で出てきます(スワップは複利で増やせるのか)。違うのは、投資信託では再投資が自動で行われる形を選べることです。

金融商品そのものが、終わることがある

2026年4月10日、日本株厳選ファンドの四つのコースが同じ日に償還されました。豪ドルコース、アジア3通貨コース、メキシコペソコース、トルコリラコースの四つです。

残ったのは円コース、米ドルコース、ブラジルレアルコースです。中身の日本株は七本とも同じでしたから、資産ではなく、通貨側で判断されています。

資源ファンドの南アフリカランド・コースにも、終わりの日は決まっています。信託期間の終了は2029年6月15日です。

FXには満期がありません。その代わり、証拠金が足りなくなれば建玉は強制的に決済されます(レバレッジとロスカット)。投資信託にその仕組みはありませんが、信託期間という日付が最初から決まっていて、繰り上げられることもあります。長く持つつもりで買うなら、この日付は買う前に見ておく数字です。

手数料は、持っている日数の分だけ引かれる

資源ファンドの南アフリカランド・コースの信託報酬は、年1.10%(税込)です。純資産総額は35.58億円で、これも2026年9月8日の数字です。

四つの金融商品を比べたときは、1リラあたり何銭という形で並べました。あれは売買のたびに一度乗る額です。信託報酬はそこが違っていて、持っている日数の分だけ、毎日少しずつ差し引かれます。

買値と売値の差が入り口で一度だけ乗るという話は、FXでも同じでした(スプレッドとは)。入り口で一度なのか、持っている間ずっとなのかは、持つ期間を決めてからでないと比べられません。

三つの階を、別々に見る

中身の資産、二つの通貨の金利差、そして為替。この三つが同時に動いて、基準価額という一つの数字になります。どの階で増えて、どの階で減ったのかは、その数字には書かれていません。

円で暮らしている人にとっては、三つのうち二つが円との関係で決まります。金利差の相手が円であり、為替の相手も円だからです。世界の資源株が上がっても、円高が進めば手元の数字は増えないことがあります。

買う前に確かめられるのは、中身の資産が何なのか、為替取引の相手がどの通貨なのか、信託報酬が年何%なのか、信託期間がいつまでなのか、の四つです。名前に通貨が入っていることは、その国の資産を持っていることを意味しないことに注意が必要です。