北海産のブレント原油は、相場の代表的な指標です。2026年8月19日の時点で、1バレル92ドル前後にあります。ホルムズ海峡をめぐる緊張が長引き、8月に入ってから水準を切り上げてきました。
原油が動いた日、高金利通貨を持っている人は何を見ればいいのでしょうか。「資源国の通貨だから、原油が上がれば買われる」という連想は、当サイトが追っている三通貨では素直に成り立ちません。
原油が上がって喜べる通貨は、この三つの中にない
先に結論を置きます。南アフリカとトルコは原油を買う側で、メキシコは売る側です。ところが売る側のペソも、原油の値動きではほとんど動きません。
| 通貨 | 原油との関係 | 原油高で起きること |
|---|---|---|
| 南アフリカランド | 資源は売るが、燃料は買う | 燃料が物価を押し上げ、中央銀行の手が縛られる |
| トルコリラ | 買う側そのもの | 輸入の支払いが膨らみ、経常赤字が広がる |
| メキシコペソ | 産油国だが、輸出の主役ではない | ほとんど動かない(石油は予算の側にある) |
買う側の二つは痛みが出て、売る側の一つは反応が薄い。三通貨をまとめて見ると、原油高が持ち上げてくれる通貨は残りません。ここから、通貨ごとに経路をたどっていきます。
南アフリカ――売る資源と、買う資源は別のもの
南アフリカは資源の国です。鉱物販売額の内訳は、金が約33%、PGM(白金族金属)が約25%、石炭が約16%です(2025年12月時点)。この三つだけで、およそ7割を占めます(掘って売る側の話はランドはなぜ「資源通貨」なのかにまとめました)。
ところが原油は、この国から出てきません。国内の原油生産は、供給の1%に届かない水準です。必要な量は、ほぼ買っています。
しかも買っているのは原油だけではありません。2023年の輸入量は原油が約132億リットル、ガソリンやディーゼルといった精製された製品が約190億リットルでした。製品の方が多いのは、国内の製油所が減り、その分を完成品で埋めているからです。
調達先も見ておきます。原油はナイジェリアが約29%、サウジアラビアが約24%。ディーゼルはオマーンが約34%、インドが約20%です。湾岸から来る分は、ホルムズ海峡を通ってきます。南アフリカから遠く離れた海峡の話が、この国のガソリン価格に回ってくる経路がここにあります。
資源を売る国であると同時に、燃料を買う国。ランドを見るときに「資源通貨」の一語で片づけられないのは、この二面性があるからです。
その燃料が、物価の向きをひと月で変えた
買う側にいることが数字に出たのが、2026年の夏の南アフリカです。
| 時期 | 燃料 | 消費者物価(前年同月比) |
|---|---|---|
| 2026年6月 | 1年で34.3%上昇(ディーゼル50.8%・ガソリン31.7%) | 5.0%=2年ぶりの高さ |
| 2026年7月 | 前の月より下落 | 4.3%(前月比は+0.2%) |
| 2026年8月 | 原油は92ドル前後へ再び上昇 | 9月中旬に発表 |
6月は中東の緊張で跳ねたエネルギー価格が輸送費を通じて回り、物価は2年ぶりの高さになりました。7月はその燃料が下がり、物価も4.3%へ落ち着いています。物価を跳ねさせた項目と、落ち着かせた項目は同じでした。
注目したいのは、向きがひと月で入れ替わったことです。物価の向きは高金利通貨の金利を左右するので、原油の値動きは物価という一段を挟んで政策金利につながっていきます(物価の向きを表す言葉そのものはディスインフレとは?で扱いました)。
トルコ――赤字の大きさを、自分では決められない
トルコは、買う側そのものです。エネルギーの収支だけを取り出すと、2026年5月は約45億ドルの赤字。前年同月からは5割以上ふくらんでいます。12か月でならした経常赤字は約373億ドルです。
ところが、金とエネルギーを外した収支は、同じ月に36.3億ドルの黒字でした。輸出で稼げていないわけではなく、買っている二つの品目が収支を赤字にしています(赤字の中身はトルコの経常収支とは?で扱いました)。
その二つのうち、エネルギーの値段を決めているのは産油国と中東情勢です。使う量を急に減らすこともできません。赤字がどこまでふくらむかは、国境の外側で決まっていきます。原油高がリラに重くのしかかるのは、この一点によります。
メキシコ――産油国なのに、原油では動かない
では、売る側のペソはどうでしょうか。
輸出に原油が占める割合は、5%台です。主役は自動車や電機の工業製品で、原油が値上がりしても輸出全体を持ち上げる力は限られます。石油の存在感は、外貨の稼ぎ手としてよりも国の予算の側にあります(その構図はメキシコは産油国なのに、なぜ石油がペソを支えないのか?で扱いました)。
売る側にいながら、原油の値動きでは動かない。三通貨の中で、ペソは原油との距離が最も遠い通貨になります。
なお、円を持っている側から見れば、日本も原油を買う国です。原油高は日本の輸入額も膨らませます。ただし近年の円は、地政学的な緊張があっても買われる力が弱まっています。買う側どうしの通貨ペアでも、痛みの出方が同じになるとは限りません。
口座では、スワップとレートに逆向きに出る
ここまでは国の話でした。口座の側に引き寄せると、原油の読み方はもう一段こみ入ってきます。
高金利通貨の損益は、金利差から積み上がるスワップの部分(第一層)と、対ドルで動くレートの部分(第二層)に分けられます。この分け方は二層構造の金利差にまとめました。
原油高は、この二つに別々の向きで出ます。ここではスワップを受け取る側、つまり高金利通貨を買って持つ場合を前提にしています。売り持ちなら、向きはそのまま裏返ります。
- 第一層は当面守られる――燃料が物価を押し上げれば、中央銀行は利下げに動きにくくなります。政策金利が高いまま置かれる分、受け取るスワップはすぐには細りません
- 第二層は重くなる――輸入の支払いが膨らみ、経常収支は悪くなります。中東の緊張そのものが売り材料になる局面では、レートは下を向きやすくなります
原油が下がるときは、この裏返しになります。物価が落ち着けば利下げの理由が育ち、スワップは細っていく。その代わり、レートにかかっていた重しは軽くなります。
南アフリカの6月と7月は、その両方をひと月ずつ見せた形でした。政策金利は7.00%のまま据え置かれています。一つの材料が、受け取る側とレートの側で逆を向く。原油のニュースを一つの結論に丸めにくいのは、このためです。
次に原油が動いたら、どこを見ればいいのか
見る順番は三つで足ります。
- その国は買う側か、売る側か――南アフリカとトルコは買う側、メキシコは売る側です。ただし売る側でも、輸出に占める割合が小さければ反応は薄くなります
- 物価のどの項目に出ているか――燃料と輸送です。南アフリカの6月は燃料が1年で34.3%上がり、7月は下がりました
- 中央銀行が動けるかどうか――物価が上を向けば、利下げは先に延びます(見ているものはランド円の金利を決めるSARBとは?にまとめました)
この三つを順に当てれば、「原油高で新興国通貨は売られる」という一括りの見出しを、通貨ごとに解きほぐせます。
次の手がかりは、9月中旬に出る南アフリカの8月分の消費者物価です。8月に原油が切り上げた分が、燃料と輸送を通じてどこまで物価に回ったのか。そこを確かめれば、原油から通貨までの道のりを、もう一度自分の目で追えます。

