南アフリカは、金やプラチナを掘って海外に売り、外貨を稼ぐ国です(この構造はランドはなぜ「資源通貨」なのかで、通貨そのものの全体像は南アフリカランドとは?で扱いました)。

ところが、その南アフリカの経常収支は、長い間ずっと赤字が続いてきました。掘って、売って、外貨を稼いでいるはずの国が、国全体で見ると海外に払うお金の方が多い状態にあった。この食い違いは、どこから来ているのでしょうか?

答えは、稼いだお金の行き先にあります。

貿易は黒字。それでも収支は赤字だった

経常収支そのものの中身については経常収支とは?で扱ったので、ここでは一点だけ押さえます。モノの出入りだけでは、経常収支は決まりません。

南アフリカは、モノの売り買いでは稼いでいます。鉱物の輸出額が輸入額を上回る、貿易黒字の国です。それなのに経常収支全体では赤字だったということは、モノ以外のところで、それを打ち消すだけのお金が出ていっていたことになります。

では、その出ていくお金とは何なのでしょうか?

出ていく側にあるのは、外国人株主への配当

南アフリカは、国内の貯蓄だけでは大規模な鉱山開発や設備投資をまかないきれず、鉱業や金融が海外からの資本に支えられて育ってきたとされます。海外の投資家がお金を出し、南アフリカの企業がそれで掘る。この形が長く続いてきました。

すると、何が起きるか。鉱山会社が利益を上げると、その一部は配当として外国人株主のもとへ渡ります。借り入れがあれば、利子の支払いも海外へ出ていきます。これらは国の外へ出ていくお金なので、経常収支の上では支払いとして計上されます。南アフリカの経常赤字の主な要因は、この対外的な所得の支払いにあるという指摘が、複数の研究機関から出されています。

輸出で稼いだ外貨が、そのまま国に留まるわけではない、ということです。掘って売った代金は確かに入ってきます。けれど、それを掘るための資金を出したのが海外の投資家であれば、儲けの一部は出資者のもとへ戻っていきます。海外からの資本で産業を育ててきた国が、その見返りを払い続けているとも言えます。

ここから、この国の収支の特徴が見えてきます。資源価格が上がると、入ってくる側と出ていく側が、同時に膨らむのです。

中身資源価格が上がると
入ってくる側金・プラチナなど鉱物の輸出増える
出ていく側外国人株主への配当、海外への利子の支払い、サービスの支払いこちらも増える
※どちらが大きくなるかは時期によって変わります。

資源が高く売れれば輸出代金は増えますが、その資源を掘っている会社が儲かるということは、株主への配当も増えるということです。片側だけが増えるわけではありません。掘る量が同じでも、値段が上がれば両側が動く。これが、稼いでいるのに残りにくい構造の正体です。

なお、財政の面から見れば、鉱山会社の利益は税収としても国に入ります。この国の帳尻がどう見られているかは財務相が代わると、なぜランドは一晩で急落する?でも扱いました。稼ぎは、税として残る分と、配当として出ていく分に分かれていきます。

今起きていること――黒字に転じた

ここまで「赤字だった」と過去形で書いてきたのには、理由があります。足元の南アフリカは、経常黒字に転じています。

2026年1〜3月期の経常収支は、1,907億ランドの黒字でした。GDP比では+2.4%にあたり、四半期としては4年半ぶりの大きさです。その前の2025年10〜12月期も502億ランドの黒字で、こちらは2年3か月ぶりの黒字転換でした。

押し上げたのは貿易黒字です。2,822億ランドから4,379億ランドへ大きく広がりました。金の純輸出が伸びる一方、輸入が減ったためです。背景には、2026年1月に史上最高値を更新した金価格の高騰があります。

ただし、ここで見ておきたいのは黒字の額ではありません。出ていく側が減ったわけではないという点です。同じ期間、サービスや所得の支払いなどの赤字は、むしろ2,321億ランドから2,472億ランドへ広がっています。つまり黒字に転じたのは、出ていく側が細ったからではなく、入ってくる側が押し切ったからです。構造そのものは、変わっていません。

前の節で見た通り、資源が高く売れる時期には、配当として出ていくお金も増えます。実際にこの四半期も、両側が揃って膨らみました。それでも黒字になったのは、入ってくる側の伸び方が、出ていく側を上回ったからです。だからこの黒字は、南アフリカが稼ぎを国内に留められるようになった結果ではありません。金という一つの商品の値段が、たまたま両側の綱引きを一方に傾けた、というのが実際のところです。

実際、2026年の通年で見ればGDP比-1.4%の赤字になるという見通しも出ています(アフリカ開発銀行の予測)。四半期の黒字と、年間の姿は別のものです。金の値段が落ち着けば、押し切っていた側の力も弱まります。今の黒字は、価格が作った黒字だと見ておく方が安全です。

なお、ランド円の値動きは南アフリカ側の事情だけで決まるわけではなく、円の側の動きも半分を占めます。この切り分けはクロス円とは?を参考にしてください。

3通貨では、どこを見るか

同じ経常収支でも、注目する場所は通貨によって違います。

通貨収支の論点
南アフリカランド黒字か赤字かより、その年の資源価格で決まってしまうこと
メキシコペソ対米の輸出と送金が支える一方、米国側の事情に左右されること
トルコリラ慢性的な赤字を、何で埋めているか

トルコのように赤字が続く国では、その赤字を何で埋めているかが問われます(この構造はトルコリラはなぜ中東情勢で動く?で扱いました)。南アフリカの場合は、埋め方以前に、収支そのものが資源価格によって年ごとに姿を変えます。単年の数字だけを見ても、この国の傾向はつかめません。

見分け方――三つだけ見る

南アフリカの経常収支のニュースを読むときは、三つを確かめます。

一つ目は、黒字か赤字かではなく、どちらの側が動いたのかです。輸出が増えたのか、それとも支払いが減ったのか。同じ改善でも、意味が違います。

二つ目は、資源価格と一緒に見ることです。資源が高い時期の黒字は、価格が落ち着けば戻りうるものです。値段が作った黒字なのか、構造が変わった黒字なのかを分けて考えます。四半期の数字が良かったからといって、その年の姿がそのままになるとも限りません。

三つ目は、足りない分を何で埋めているかです。赤字を海外からの証券投資でまかなっている間は、世界のムードが変わったときに、そのお金が真っ先に抜けていきます(この動きはリスクオン・リスクオフとは?で扱いました)。海外マネーが引くとランドが売られる場面は、ランド円はなぜ急落するのかで見た通りです。

稼ぎは、どこまで国に残るのか

資源国の経常収支は、掘った量では決まりません。値段と、出ていく側の大きさで決まります。南アフリカは掘って売って稼いでいる国ですが、その稼ぎの一部は配当として海外へ渡り、手元に残る分を細らせてきました。

足元では黒字に転じています。ただし出ていく側は減っておらず、黒字を作ったのは金の値段です。ニュースで「経常黒字」という言葉を見たときは、それが構造の改善なのか、それとも価格が押し切った一時的な姿なのかを確かめてみてください。南アフリカの収支は、その二つを見分けられるかどうかで、読み方がまるで変わります。