南アフリカで、仕事を探しているのに見つからない人は850万人です。働いている人は1,670万人。2026年4〜6月期の数字です。
失業率にすると33.6%になります。
この国の弱点として当サイトが扱ってきたのは、電力と物流でした。三つ目がここにあります。
三か月で、失業している人が34万人増えた
南アフリカ統計局が四半期ごとに出している労働力調査があります。直近の4〜6月期は、2026年8月11日に公表されました。
| 2026年1〜3月期 | 2026年4〜6月期 | |
|---|---|---|
| 公式の失業率 | 32.7% | 33.6% |
| 若年(15〜34歳)の失業率 | 45.8% | 47.4% |
4〜6月期は、失業している人が34万5千人増えて850万人になりました。同じ期間に働いている人は1万6千人減って1,670万人です。
増えた数と減った数で、桁が違います。働き口が大きく減ったというより、探す人が増えた四半期でした。
南アフリカが「アフリカ最大の経済」と呼ばれる一方で低成長と高失業を抱えていることは、通貨の入門記事でも触れました(南アフリカランドとは?)。その高失業に、数字を入れていきます。
33.6%は、一番小さい数え方
失業率には、数え方が一つではありません。統計局は同じ四半期について、三つの数字を出しています。
| 数え方 | 2026年4〜6月期 |
|---|---|
| 仕事を探している人だけ | 33.6% |
| +働く時間が足りない人まで | 36.6% |
| +探すのをやめた人まで | 43.8% |
一番上が、公式の失業率です。調査の期間に実際に仕事を探した人だけを、失業者として数えます。
一番下は、探すのをやめてしまった人まで含めた数字です。43.8%。同じ四半期の、同じ統計局の数字が、33.6%から43.8%まで開くことになります。
三つの差を生んでいるのは、「探したかどうか」です。仕事がないという状態が同じでも、調査の期間に実際に仕事を探した人だけが、公式の失業者に数えられます。探すのをやめた人は、そこから外れます。
だから公式の失業率が下がった四半期でも、探すのをやめた人が増えただけ、という組み合わせが起こりえます。下の二つを一緒に見ておくと、そこを取り違えずにすみます。
ニュースの見出しに出てくるのは、たいてい33.6%の方です。三つのうちのどれを見ているかで、同じ四半期の景色が変わります。
若年層では、二人に一人に近い
15歳から34歳に絞ると、失業率は47.4%になります。4〜6月期に、この年代の失業者は26万4千人増えて500万人になりました。
1〜3月期は、この年代の働いている人が560万人、仕事がない人が470万人でした。三か月で、仕事がない人が500万人まで増えたことになります。
ここが、物価の話とつながります。当サイトでは3通貨の最低賃金の決まり方を扱いましたが(インフレの最後の数%は、どこに残るのか)、賃金が上がっても、その恩恵は働いている人にだけ届きます。仕事に就けない層が厚いほど、賃金の上昇が国全体の需要には回りにくくなります。
電力でも物流でもない、三つ目の重し
南アフリカの構造問題として、当サイトはこれまで二つを扱ってきました。
一つは電力です。停電が続けば工場は止まり、成長が削られます。2023年の電力危機は、SARBの試算で経済成長率をおよそ1.8%分押し下げたとされています(ロードシェディングとランド安)。
もう一つは物流です。掘り出した鉱物を港まで運べなければ、輸出の代金は入ってきません。鉄道と港のボトルネックは、資源価格が上がった年でも稼ぎきれない理由になってきました(資源価格が上がっても、南アフリカが稼ぎきれないのはなぜか)。
電力は作れない制約、物流は運べない制約です。雇用は、そのどちらとも違います。働ける人がいるのに働いていない、という制約です。
この違いは、直り方にも出ます。発電所が動けば電力は戻ります。線路と港が回れば貨物は動きます。雇用は、設備が直っただけでは戻りません。
それでもSARBは、5月に利上げした
ここが、この記事で一番お伝えしたい場所です。
失業率が3割を超え、若年層では5割に迫る国です。教科書どおりなら、中央銀行は景気を支える側に立ちます。ところが南アフリカ準備銀行は、2026年5月に政策金利を7.00%へ引き上げました。7月23日の会合でも据え置きを選び、市場が織り込んでいた利上げが外れてランドは下げています。
景気の弱さより物価を優先できる理由は、物差しが変わったところにあります。南アフリカは2025年、25年続いた「3〜6%の範囲」という物価目標を、「3%(上下1%まで許容)」に切り替えました。この経緯は会合の読み方とあわせて扱っています(ランド円の金利を決めるSARBとは?)。
目標が下がれば、同じ物価でも「範囲の内側」が「上振れ」に変わります。7月のインフレ率は4.3%でした。新しい許容幅の上限は4%です。かつての3〜6%なら範囲の真ん中あたりだった数字が、今は上限を超えたところに置かれています。
雇用が弱いことは、引き締めをためらう理由にはなっても、止める理由にはなりませんでした。物差しを短くした国では、同じ物価が違う意味を持ちます。
円で持つ人には、どこから届くのか
ここまでの話が、口座にどう回ってくるのかを三つに分けます。
一つ目は、スワップです。受け取るスワップの厚みを決めているのは、南アフリカと日本の政策金利の差でした(二層構造の金利差)。
教科書どおりなら、雇用の弱さは利下げの材料です。金利が下がれば、受け取るスワップは細ります。つまりこの数字は本来、スワップを減らす方向に働きます。
ところが今の南アフリカでは、そうなっていません。物価の目標が下がった分、雇用が弱いままでも引き締めが選ばれています。雇用からスワップへ向かう道が、物価に塞がれている状態です。
この塞がり方が、いつまでも続くとは限りません。物価が目標に収まってきたとき、次に前へ出てくるのが雇用の弱さです。
二つ目は、財政です。仕事がない人が多いほど、税を納める人は少なく、支える支出は厚くなります。予算が通るかどうかがランドを動かしてきた背景にも、この重さがあります(財務相が代わると、なぜランドは一晩で急落する?)。
三つ目は、成長の天井です。仕事に就けていない人がこれだけ厚い経済は、設備を直しても伸びしろが限られます。資源価格が上がった年でも、成長がそれほど加速しないことの背景にあります。
どれも、発表の日にレートが動くという種類の材料ではありません。ゆっくり回ってくる数字です。
次の数字が出る日は、決まっている
労働力調査は四半期ごとに公表されます。4〜6月期は8月11日でした。次は7〜9月期で、同じように三か月後に出てきます。
この数字は、予想して当てにいくものではありません。日付が先に決まっているので、出てきてから情報を得れば十分です。
そのとき確かめておけることが、一つあります。目にした数字が、仕事を探した人だけを数えたものなのか、探すのをやめた人まで入れたものなのか。同じ四半期に、33.6%と43.8%が両方あります。見出しに載るのは、たいてい小さい方です。
そして、この数字が良くなった四半期は、成長の天井が上がった四半期でもあります。ただし、それだけで受け取るスワップが細るわけではありません。金利を下げる余地を作るのは、雇用ではなく物価だからです。
33.6%という数字は、明日のレートを教えてはくれません。この国が何を抱えたまま高い金利を続けているのかを、四半期に一度、思い出させてくれる数字です。

