南アフリカの政策金利は7.00%です。メキシコは6.50%。数字だけを並べれば、高いのは南アフリカの方になります。

ところが、同じ二つの国に10年お金を貸したときの利回りは、南アフリカが9.00%、メキシコが9.45%。順番が入れ替わります。

どちらも「金利」と呼ばれている数字です。では、なぜ順番が違うのでしょうか?

金利には、中銀が決めるものと市場が決めるものがある

政策金利は、中央銀行が会合で決めます。年に6回とか8回とか、日付が先に決まっていて、その日に動くか動かないかが発表されます。会合の日程と今の水準は、当サイトの中央銀行の会合カレンダーにまとめてあります。

10年債利回りは、決まり方が違います。その国が発行した10年物の国債が、市場でいくらで売り買いされているか。その値段から逆算して出てくるのが利回りです。買いたい人が多ければ債券の値段は上がり、利回りは下がります。売る人が多ければ逆になります。

会合の日は関係ありません。毎日、取引されるたびに動きます。二つを並べます。

政策金利10年債利回り
南アフリカ7.00%9.00%
メキシコ6.50%9.45%
アメリカ3.50〜3.75%4.48%
日本1.0%程度2.65%
トルコ37.00%
政策金利は当サイトの会合カレンダー(各中央銀行の公表資料・2026年8月時点)です。10年債利回りはOECDがまとめ、セントルイス連銀のFREDで公開されている月次の値です。2026年5月分です。FREDでの番号はIRLTLT01ZAM156N / IRLTLT01MXM156N / IRLTLT01USM156N / IRLTLT01JPM156N。小数第2位に丸めています。南アフリカとメキシコの政策金利は、どちらも2026年5月に今の水準になりました。トルコの欄が空いているのは、この統計にトルコの10年債が入っていないためです。

南アフリカとメキシコで、順番が入れ替わる

政策金利は南アフリカが7.00%、メキシコが6.50%。高いのは南アフリカになります。

10年債利回りは逆です。南アフリカが9.00%、メキシコが9.45%。10年という長さで貸すなら、市場がより高い利回りを求めているのはメキシコの方になります。

メキシコペソは、3通貨の中では「安定した高金利通貨」として扱われることの多い通貨です(その評判の中身はペソ円のスワップは、なぜ“安定”して見える?で分解しました)。その国が、長い金利では南アフリカより高い。

短い金利は、中央銀行が今の物価と景気を見て決めます。長い金利は、10年先までを織り込んだ値段として市場がつけます。見ている時間の長さが違えば、順番が違っていてもおかしくはありません。

1年前は、逆の逆だった

この順番は、ずっとこうだったわけではありません。同じ二つの国を、1年分並べます。

時点南アフリカメキシコ
2025年6月10.58%9.39%
2025年9月9.87%8.79%
2025年12月8.79%9.20%
2026年2月8.26%8.74%
2026年5月9.00%9.45%
10年債利回りの月次の値です。出所は表1と同じFRED(IRLTLT01ZAM156N / IRLTLT01MXM156N)で、小数第2位に丸めています。2026年3月はメキシコの値が公表されていないため、この表では飛ばしています。

2025年6月、南アフリカは10.58%でした。メキシコは9.39%。このときは南アフリカの方が高い。

そこから南アフリカだけが下がっていきます。9月に9.87%、12月に8.79%。メキシコは9.39%、8.79%、9.20%と上下していますが、9%前後から離れていません。入れ替わったのは2025年12月です。その後も二つの線は近く、2026年4月には南アフリカがわずかに上へ戻る月もありました。

同じ期間に、南アフリカの政策金利は下がっていません。2026年5月には利上げされて7.00%になっています(会合の読み方はランド円の金利を決めるSARBとは?)。

短い金利は上げられ、長い金利は下がった。中央銀行が引き締めている国で、10年貸す側が求める利回りは低くなっていきました。同じ国の二つの金利が、別々の理由で動いています。

トルコの10年債は、この統計に並ばない

表1で、トルコの欄だけが空いていました。

OECDは加盟国の長期国債利回りを同じ形式でそろえていて、FREDから国ごとに引くことができます。南アフリカ、メキシコ、韓国、ポーランド、ハンガリー、チリ。どの国も同じ形で数字が並びます。ところがトルコの10年債は、そこにありません。

OECDの長期金利統計
南アフリカある
メキシコある
韓国ある
ポーランドある
ハンガリーある
チリある
トルコない
「ない」は、この統計にその国の数字が用意されていないという意味です。トルコに国債市場がない、という意味ではありません。

数字がないことそのものは、トルコについて何かを断定する材料にはなりません。ただ、政策金利37.00%という数字の隣に10年の利回りを置いて比べる作業が、国際比較の統計の上ではできない、ということは分かります。

リラの高金利がどこから来ているのかを見るには、名目と実質を分けるところから始めることになります(トルコリラの金利37%の“正体”とは?)。

この数字は、スワップの中には入っていない

円で高金利通貨を持っている人にとって、受け取るスワップを決めているのは政策金利の方です。二つの国の短い金利の差が第一層、その通貨の対ドルを動かす力が第二層。この枠組みは二層構造の金利差で扱いました。

10年債利回りは、そのどちらでもありません。南アフリカの10年債が9.00%だからといって、ランド円のスワップが9.00%で回るわけではないのです。

では見なくてよいのかというと、そうでもありません。スワップの中に入っていないからこそ、スワップとは別の材料になります。中央銀行がまだ動いていない段階で、市場の方が先に値段を変えていることがあります。

円側にも、同じ二つの数字があります。日本銀行の政策金利は1.0%程度で、日本の10年債利回りは2.65%です。円を安く借りて高金利通貨を持つ形が前提にしているのは短い方の金利で、長い方はそれとは別に動いています。

格付けとの違いは、動く速さ

その国にお金を貸してよいかを測る数字は、他にもあります。ソブリン格付けです。3社が記号で評価し、投資適格とジャンクの線が引かれています(ソブリン格付けとは?)。

格付けと利回りは、近いものを違う速さで測っています。格付けは会社が判断して発表するので、動くのは年に数回です。利回りは毎日つきます。

格付けは、会社が発表した日に動きます。利回りは、その間の毎日に少しずつ動きます。表2で見た南アフリカの1年は、月ごとに値が変わっていました。記号は、そういう動き方をしません。

どちらが正しいという話ではありません。年に数回の判断と、毎日の値段。二つは別の目盛りです。

その国に10年貸すなら、何%欲しいか

政策金利は、中央銀行が今を見て決めた数字です。10年債利回りは、市場がこれから10年に値段をつけた数字です。

二つが違う順番を示したとき、どちらかが間違っているわけではありません。ただ、「高金利」という一語が、二つの別々のものを指しています。

受け取るスワップの厚みを決めているのは、中央銀行が決めた方の金利です。その国に長く貸す人がいくら求めているかを表しているのは、市場がつけた方の金利です。ペソの「安定した高金利」という評判は前者の話で、後者では南アフリカより高い利回りを求められています。

政策金利で並べれば、南アフリカがメキシコの上にきます。10年債で並べると、逆になります。トルコにいたっては、並べる数字そのものがありません。

高金利通貨という一語の中に、少なくとも二つの並びがあります。次にその言葉を見たときは、どちらの金利の話なのかを先に確かめられます。スワップの厚みを見たいのか、その国がどう値付けされているかを見たいのかで、開く数字が変わります。