「ドル高が進んだ」「ドル指数が上昇した」。為替のニュースでは、毎日のように出てくる言い方です。

ただ、その数字が何を測ったものかを開けて見る機会は、あまりありません。一番広く使われているドル指数は、六つの通貨でできています。ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローナ、スイスフラン。

南アフリカランドも、メキシコペソも、トルコリラも入っていません。では、その見出しは口座の何を伝えているのでしょうか?

ドル指数は、六つの通貨でできている

相場のニュースや取引画面でDXYと書かれているのは、ICEという取引所が算出している指数です。中身と重みは公開されています。

通貨重み1973年の発足時は
ユーロ57.60%西ドイツマルク・フランスフラン・イタリアリラ・オランダギルダー・ベルギーフランの五つ
13.60%
ポンド11.90%ポンド
カナダドル9.10%カナダドル
スウェーデンクローナ4.20%スウェーデンクローナ
スイスフラン3.60%スイスフラン
ICEが公開しているFX指数の算出方法とFAQにもとづきます。発足時は10通貨で、1999年にユーロの行の五つが一つにまとまり、六通貨になりました。重みは六つで合計100%です。

半分以上がユーロです。二番目に重いのが円になります。

この指数を作ったのは、もともとICEではありません。1973年にFRBが、ドルの対外的な価値を測るために用意したものです。ICEが構成と重みを引き受けたのは、1985年に先物の取引が始まってからでした。

基準日は1973年3月、基準値は100。ICEの資料では、1973年に測ったアメリカの上位六つの貿易相手として説明されています。ユーロ圏を一つと数えた言い方です。

そして、入れ替えの予定は置かれていません。ICEは、定期的な調整も再計算もしないと明記しています。構成が変えられたのは、ユーロが導入されたときの一度だけです。半世紀前の貿易の姿で作られた目盛りが、今もそのまま使われています。

高金利通貨を円で持つ形では、対ドルの部分が二層構造の金利差でいう第二層にあたります。ドル指数は、その第二層を語るときに持ち出されることの多い数字です。

ペソだけは、別の指数で二番目に重い

ドル指数はDXYだけではありません。FRBも自分で作っていて、しかも三本あります。広義のもの、先進国向けのもの、新興国向けのものです。

先進国向けの顔ぶれは、DXYの六つにオーストラリアドルを足したものです。ここはDXYとほぼ重なります。広義の指数には26の国・地域が入り、重みは貿易額のシェアで決まります。毎年見直され、直近の改定は2026年2月2日でした。

国・地域広義ドル指数での重み振り分け先
ユーロ圏21.007%先進国向け
メキシコ14.801%新興国向け
カナダ12.769%先進国向け
中国10.891%新興国向け
英国5.246%先進国向け
日本5.182%先進国向け
韓国3.621%新興国向け
インド3.351%新興国向け
FRBが公開しているH.10の通貨ウェイト(2026年2月2日改定)のうち上位八つ。広義の指数は26の国・地域でできていて、そのうち七つが先進国向け、残り19が新興国向けに振り分けられます。

メキシコが14.801%で、ユーロ圏に次ぐ二番目です。ユーロ圏は地域なので、国の単位で見れば一番大きいのはメキシコになります。カナダよりも、中国よりも重い。

理由は、当サイトでも扱ってきた通りです。アメリカから見て、メキシコは貿易額が最も大きい相手国です。メキシコの輸出は8割超がアメリカ向けでもあります(メキシコと米国の関係)。ドルの強さを貿易額で測ろうとすれば、ペソは上位に出てきます。

ここで一つ断っておくと、この重みは貿易額の大きさであって、通貨の強さや脆さの評価ではありません。

ランドとリラは、新興国向けの指数にもいない

同じ表を、載っていない側から見ます。26の国・地域に、南アフリカもトルコもありません。3通貨を代表的なドル指数に当てはめると、こうなります。

DXY(ICE)FRB 先進国向けFRB 新興国向け
メキシコペソ入っていない入っていない入っている(広義で14.801%)
南アフリカランド入っていない入っていない入っていない
トルコリラ入っていない入っていない入っていない
DXYはICEの六通貨、FRBの二本は広義の指数(26の国・地域)を先進国向けと新興国向けに振り分けたものです。ランドとリラは、この三本のどこにも出てきません。

先進国向けの指数に入らないのは分かるとして、新興国向けの指数にも出てきません。ドルの強さを測る代表的な目盛りのどこにも、この二つの通貨は載っていません。

2013年に「脆い」と名前を挙げられた5通貨のリストには、ランドとリラが入っていました(フラジャイル・ファイブとは?)。あのリストは、人が判断して作ったものです。FRBの重みは、貿易額から機械的に出てきます。基準の作られ方が違えば、同じ通貨でも入ったり外れたりします。

円で持っている人にとって大事なのは、ここから先です。指数に入っていない通貨の対ドルは、指数をいくら見ても分かりません。

二つの指数が、逆を向いた年がある

では、指数と実際の対ドルは、どのくらい離れるのでしょうか? 二つの年を並べます。

2020年(1月2日→12月31日)2026年(1月2日→8月21日)
ドル指数(先進国向け)109.20 → 102.58111.18 → 111.36
ドル指数(新興国向け)122.30 → 121.90130.06 → 126.58
1ドル=何ランド14.12 → 14.6516.48 → 15.99
1ドル=何ペソ18.89 → 19.8917.88 → 16.89
1ドル=何円108.43 → 103.19156.72 → 158.91
二つの指数は揃って下げた逆を向いた
ランドとペソの対ドルはどちらも年初より安いどちらも年初より高い
FRBのドル指数(先進国向け・新興国向け)と、各通貨の対ドル相場。セントルイス連銀のFRED(DTWEXAFEGS / DTWEXEMEGS / DEXSFUS / DEXMXUS / DEXJPUS)による値です。2026年は8月21日時点までを取っています。1ドル=何ランド・何ペソ・何円は、数字が増えるほどその通貨が安いことを表します。

2026年の先進国向けの指数は、年初と8月21日がほぼ同じ水準です。この期間を指数だけで振り返れば、ドルは行って帰ってきたことになります。ところが新興国向けは、同じ期間に下げています。名前が同じ「ドル指数」でも、測る相手を替えると年の評価が入れ替わります。

口座の中は、さらに違います。ランドもペソも、対ドルでは年初より強くなりました。円だけが逆で、ドルに対して安くなっています。先進国向けの指数が動かなかったのは、円の弱さを他の通貨の強さが打ち消したからです。指数は平均なので、内訳が消えます。

2020年は、逆の見え方になります。先進国向けの指数は109.20から102.58まで下げました。ドル安の年、と振り返られる年です。それでも1ドルと交換できる量は、ランドもペソも増えました。通貨側から見れば、年初より弱いところで年を終えています。

この年のドル安は、先進国通貨に対しての話でした。新興国向けの指数が122.30から121.90でほとんど動いていないことが、その裏づけになります。同じ「ドル安」という一語で、二つの年をどちらも説明できてしまいます。

3通貨がそれぞれ別の理由で動くことは、比較の記事で扱いました(高金利通貨を徹底比較)。指数は、たくさんの通貨をならした平均です。平均は、その中に入っていない通貨については何も言いません。

「ドル高」の13.6%は、円の話

DXYで二番目に重いのは円で、13.60%でした。円で持っている人には、この13.60%が関わってきます。

ランド円もペソ円も、ドル円と対ドルレートの割り算で決まる値段です(クロス円とは?)。同じ「ドル指数が上昇」でも、上がった中身が二通りあります。

ドル指数が上がった中身ドル円1ドル=何ランドランド円
ドルが広く買われた上がる増える上がるか下がるかは決まらない
円だけが売られた上がる変わらない上がる
DXYは円を13.60%の重みで含みます。指数が上がったという一語では、この二つのどちらなのかは決まりません。ランドはDXYに入っていないため、1ドル=何ランドの動きは指数からは読み取れません。

「ドル指数が上昇」という見出しが、ランド円にとっての向かい風とは限りません。上がった中身が円の弱さであれば、口座の評価額は増える側に動きます。見出しの一語だけでは、どちらなのかを決めきれません。

では、何を見ればいいのか

三つに絞れます。

一つ目は、どの指数の話なのか。DXYなのか、FRBの三本のどれかなのか。名前は同じ「ドル指数」でも、測っている相手が違います。2026年のように、二本が逆を向く年もあります。

二つ目は、自分が持っている通貨がそこに入っているか。3通貨の当てはめは、上の表の通りです。ランドとリラはどこにもなく、ペソはFRBの新興国向けだけに、しかも重い位置で入っています。同じ3通貨でも、指数から見た立ち位置は揃っていません。

三つ目は、円が何%を占めているか。DXYであれば13.60%です。その分だけ、指数の動きには円の事情が混ざっています。

そのうえで、ドルが買われた理由も分けて見ておけます。金利で買われるドルと、不安で買われるドルでは、3通貨への届き方が変わります(FRBが利上げしたら)。

その「ドル高」は、どの通貨に対するものか

ドル指数は、誰かの貿易額で重みをつけた平均です。作った人の目的があり、その目的に合わせて通貨が選ばれています。DXYであれば、その目的は半世紀前のままです。

口座で見ている数字は、平均ではありません。1ドルが何ランドなのか、何ペソなのか、そして円が何円なのか。その三つが、それぞれ別に動きます。

次に「ドル高」の見出しを見たときは、どの通貨に対して高いのかを一度確かめられます。そこに自分の通貨が入っていなければ、その数字は口座の外側で起きている話です。