FXでエントリーした直後に、不思議に思ったことはないでしょうか? まだ値段は動いていないのに、マイナスが表示されている。エントリーした瞬間から、含み損で始まっているように見えます。
これは、買うときの値段と売るときの値段が違うために起きています。この差がスプレッドです。同じ瞬間でも、買う人には少し高い値段が、売る人には少し安い値段が提示されます。買った直後に決済すれば、その差の分だけマイナスになる。だから新規の建玉は、必ず含み損から始まります。
新興国通貨のクロス円で、この差が対ドルの通貨ペアより広くなりやすい理由は、二つの通貨ペアを掛け合わせた合成にあります(この仕組みはクロス円とは?で扱いました)。この記事で見ていくのは、その先です。その広さが、いつ、どんな形で自分の口座に影響してくるのか。
スプレッドとは、買う値段と売る値段の差
スプレッドは、いわゆる手数料なのですが、手数料という名前で請求されるものではありません。値段そのものの中に含まれています。だから、引かれたという実感がないまま引かれています。
もう一つの特徴は、買って売るまでで一度だけという点です。持ち続けている間、毎日引かれるものではありません。スワップが日をまたぐたびに毎日発生するのとは、性質が違います。
この「一度だけ」という性質には、二つの顔があります。長く持つ人にとっては、一日あたりに直すとごく薄いものになります。一方で、入るときと出るときの両方で通る関所なので、往復する回数が増えるほど積み上がります。同じ通貨を同じ量だけ持っていても、売買の頻度によって、払う総額はまるで変わります。
なお、スプレッドの水準や、どういう条件で広がるかの提示のしかたは、業者によって異なります。ご利用の口座の条件を確かめてみてください。
スワップ・為替・スプレッドは、効く時間が違う
高金利通貨を持っているとき、口座の中では性質のまるで違う三つのものが同時に動いています。
| 何か | いつ動くか・引かれるか | 持ち方への効き方 |
|---|---|---|
| スワップ | 日をまたぐたびに毎日 | ゆっくり積み上がる。長く持つほど効く |
| 為替レート | いつでも | 速く、大きく動く。一日で数か月分を動かすこともある |
| スプレッド | 入るときと出るときに一度だけ | 金額は小さいが、必ず先に引かれる |
当サイトでは、高金利通貨の損益をスワップと為替レートの二つの層に分けて考えてきました(枠組みは二層構造の金利差で扱っています)。スプレッドは、そのどちらでもありません。金利差から生まれるものでも、通貨の強弱から生まれるものでもなく、取引という行為そのものに付いてくるコストです。二つの層の外側にある、三つ目の出入りという位置付けです。
広がるのは、動きたい場面と重なっている
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。スプレッドは、いつも同じ広さではありません。
広がりやすい場面は、だいたい決まっています。日本時間の早朝、市場に参加している人が少ない時間帯。経済指標の発表や要人の発言の直後、値段が飛びやすい瞬間。週明けの寄り付き、週末の材料を一度に織り込むとき。そして、急落の最中です。
並べてみると、ある共通点に気づきます。スプレッドが広がる場面と、こちらが動きたくなる場面は、ほとんど同じです。何かが起きたから決済したい。ところが、まさにその瞬間に、往復のコストは平時より重くなっています。
| 広がりやすい場面 | そのとき口座で起きること |
|---|---|
| 日本時間の早朝 | 新規も決済も、平時より不利な値段で成立しやすい |
| 指標の発表や要人発言の直後 | 値段が飛ぶうえに、往復のコストも重くなる |
| 週明けの寄り付き | 週末の材料を一度に織り込むので、最初の値段が離れる |
| 急落の最中 | 売り注文が増える一方で、それを受ける買い注文が減っていく |
これは、値段を提示する側が不当なことをしているという話ではありません。値付けする側にも、引き受けた通貨を抱えるリスクがあります。相場が飛びやすい場面ほど、そのリスクは大きくなる。だから広げて構えることになります。
大事なのは、平時の狭さを基準にして持ち方を決めていると、出口で計算が合わなくなるという点です。落ち着いた時間帯に見ていた数字が、動きたい場面で同じとは限りません。なお、薄い時間帯に起きる一瞬の値動きや週明けの窓が、強制的な決済にどう関わるかは強制ロスカットとは?で扱っています。急落の局面で買い手が減っていく構造そのものはリスクオン・リスクオフとは?を参照してください。
3通貨では、どこが違うか
同じ高金利通貨でも、値段の付きやすさには差があります。
南アフリカランドは、新興国通貨のなかでは比較的よく取引されている通貨です(南アフリカランドとは?でも触れました)。ただし、これはあくまで新興国のなかでの話で、主要な通貨ペアと比べれば広くなります。
メキシコペソは、レートが低い分、少額から持ちやすい通貨です。一方で、円を売って高金利通貨を買う取引の主役になりやすく、多くの参加者が同じ側に傾いた局面では、出口も同じ場所に集まります(この構造は円キャリーの巻き戻しで扱いました)。
トルコリラは、政治に関わる出来事が値動きの震源になってきた通貨です(トルコリラとは?を参照)。そうした局面では、値段そのものが付きにくくなることがあります。
同じ「高金利通貨」でも、出たいときに納得できる値段が付くかどうかは、通貨によって違います。
見分け方――三つだけ見る
スプレッドとの付き合い方を、三つに絞ります。
一つ目は、自分の口座のスプレッドを「スワップ何日分か」に換算することです。往復で一度引かれるコストが、毎日受け取るスワップの何日分にあたるのか。同じ物差しに乗せると、その取引が割に合っているかが見えます(受け取り側の目安はスワップポイントとは何かにあります)。
やり方は単純で、往復のコストを一日あたりのスワップで割るだけです。答えが数日分なら、その日数を超えて持てば取り返せる計算になります(為替の変動を考えない場合)。十数日分なら、短い出入りを繰り返す持ち方とは噛み合いません。金額のままでは大きさが掴めなくても、日数に直せば自分の持ち方と比べられます。数字は業者や時点で変わるので、記事の数値ではなく、いま使っている口座の画面で確かめてみてください。
二つ目は、短く出入りするほど比重が上がることを知っておくことです。スプレッドは往復で一度きりなので、長く持つほど一日あたりでは薄まります。逆に、売買を繰り返すほど、そのたびに引かれます。
三つ目は、広がる時間帯に置きっぱなしの注文を残さないことです。早朝、週明け、指標の直後。平時の値段を前提にした注文が、そのままの条件で成立するとは限りません。
見えないところで、先に引かれている
スプレッドは、請求書の形では届きません。値段の中に最初から入っていて、買った瞬間にはもう引かれています。金額としては小さく、スワップや為替の値動きに比べれば、目立つものでもありません。
それでも、平時の狭さを前提に持ち方を決めていると、動きたい場面で広さが変わります。次に新規の建玉が小さな含み損から始まっているのを見たら、それが往復のコストの前払いであること、そして出口ではその幅が変わりうることを思い出してみてください。

