先週の予告どおり、今週は円が完全に主役でした。FOMC(7/29)、そして日本の通貨当局による3か月ぶりの為替介入(7/30)、さらに日銀の金融政策決定会合(7/31)。イベントが三日連続で並び、ドル円は163円台から一時158円割れへと、5円規模で急落する場面がありました。
そして今週の新興国通貨は、先週とちょうど裏返しの現象を見せています。先週は「ランドが対ドルで急落したのに、円安のおかげでランド円は崩れなかった」週でした。今週はその逆で、中東情勢の緩和で対ドルの地合いは改善したのに、円高に押されてクロス円は下落しています。通貨側が良くなっても、円側がそれを上回れば、円建ての評価は下がる。この一週間は、その仕組みを実感するには格好の教材でした。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ)の順に見ていきます。
- 7月30日のニューヨーク時間に円買い・ドル売り介入とみられる動き。ドル円は163円台から一時157円台後半まで、3%超の円高に振れました
- 中東は緩和方向へ。サウジアラビアが船舶保護のための有志連合を提案し、原油(ブレント)は一時2%近く下落して1バレル89ドル台に
- 日銀は政策金利1.0%を据え置き。ただし「物価は2%を明確に上回る」との見方を示しており、日本の金利上昇はスワップ狙いでトレードしている方にとって見過ごせないテーマになってきました
今週の三通貨(7/27〜31)
| 通貨ペア | 週末終値の目安 | 対ドルの水準 | 今週の主役 |
|---|---|---|---|
| ランド円(ZAR/JPY) | 9.5円前後 | 16.5ランド前後 | 原油下落で対ドルは改善、円高が重し |
| ペソ円(MXN/JPY) | 9.0円前後 | 17.4ペソ前後 | 好調なQ2GDPと円高の綱引き |
| リラ円(TRY/JPY) | 3.3円前後 | 47.5リラ前後 | 淡々とした減価と円高 |
表を見ると三通貨とも対円で下落していますが、その原因は通貨側にはありません。ランドはむしろ対ドルで16.7から16.5へと改善しています。それでもランド円が下がったのは、円がそれ以上に強くなったからです。ランド円は「ドル円 ÷ ドルランド」という割り算で決まるため、分子(ドル円)が急落すれば、分母(ドルランド)が改善しても答えは小さくなります。
円側:FOMC・介入・日銀の三連発
今週の値動きは、ほぼすべてこの三日間に集約されます。
7/29 FOMC:5会合連続の据え置き、ただし3人が利上げを主張
米連邦準備制度は、政策金利を3.50〜3.75%に据え置きました。これで5会合連続の据え置きです。注目されたのは中身で、決定は9対3の票決。3人の委員が利上げを主張して反対票を投じるという、割れた結果になりました。
ウォーシュ議長は、市場に次の一手のシグナルを与えすぎない方針を採っており、声明文もこれまでより大幅に短いものでした。会見では「インフレは下がらなければならない」と繰り返しタカ派的な姿勢を示しつつ、実際の行動は据え置き。この「口はタカ派、手は動かさず」という組み合わせを受けて、債券市場では30年債利回りが2007年以来の高水準まで上昇しています。
7/30 介入:3か月ぶりの円買い
そして木曜のニューヨーク時間、動きがありました。日本の通貨当局による円買い・ドル売り介入とみられる動きです。実施されれば約3か月ぶりで、報道によれば米当局と協調した形とされています。
ドル円は163円台から急落し、一時157円台後半まで、率にして3%規模の円高に振れました。ただし戻りも早く、いったんは160円台を回復しました。もっとも翌31日にも連日の介入観測で再び円が急伸し、週の終わりは157円台前半まで押し戻されています。財務省・日銀とも介入の実施は確認していません。介入が実際にあったかどうかの公式な確認は、8月末に公表されるデータを待つことになります。
ここで一つ、覚えておきたいことがあります。介入は約定の2営業日後に決済されるため、7月30日の取引は8月3日の日銀当座預金の数字に表れます。市場関係者がそこを注視しているのは、そのためです。
7/31 日銀:1.0%据え置き、ただし目線は上
週の最後は日銀の決定会合でした。政策金利は1.0%で据え置き。6月に0.25%引き上げたばかりで、1995年9月以来の高い水準です。決定は8対1で、1人の委員が1.25%への利上げを主張しました。
重要なのは、据え置きそのものより先行きの見方です。日銀は、2026年度の後半から物価上昇率が2%を「明確に上回る」水準へ加速するとの見通しを示し、成長率見通しも引き上げました。市場では、来年前半までに政策金利が1.50%程度へ達するとの見方が多数派になりつつあります。
外(ランド):原油下落で対ドルは改善、それでもランド円は下落
先週のSARB据え置きで16.70ランド台まで売られたランドは、今週いったん17ランドを試す場面がありました。しかし週後半にかけて反転し、週末には16.51ランド近辺まで戻しています。
反転の理由は、南アフリカ国内ではなく外部環境でした。サウジアラビアが、紅海やホルムズ海峡で攻撃を受ける船舶を保護するための有志連合を提案したことで、中東の緊張がいったん緩和方向へ。これを受けて原油(ブレント)は一時2%近く下落し、1バレル89ドル台で引けました。
原油安は、南アフリカにとって明確な追い風です。先週のCPIで見たとおり、直近のインフレ加速の主犯は燃料価格(前年比34.3%上昇)でした。原油が落ち着けば、その圧力は和らぎます。SARBが「据え置き」を選んだ判断の前提だった不確実性も、少し晴れる方向です。(参考:SARB政策金利ガイド)
ところが、ランド円は下落しました。対ドルで改善したにもかかわらず、です。理由はもちろん円高で、介入によるドル円の急落が、ランドの改善を完全に打ち消しました。通貨としてのランドは今週やや持ち直したのに、円で持っている人の評価額は減った――このねじれこそが、クロス円で新興国通貨を持つことの分かりにくさだと思います。(参考:南アフリカランド(ZAR)とは?)
隣(ペソ):好調なQ2GDP、USMCA第4ラウンドは9月へ
ペソの対ドルは17.4ペソ台と、今週も安定した推移でした。三通貨のなかでは、対ドルで最も底堅い展開が続いています。
材料として良かったのが、7月30日に発表された第2四半期のGDPです。前年同期比2.2%増、前期比では1.5%増と、2020年10〜12月期以来の高い伸びを記録しました。第1四半期が前期比0.6%のマイナスだった反動もありますが、サービス業と農業の回復に加え、ワールドカップ関連の消費が押し上げに効いたと報じられています。メキシコ財務省は2026年の成長率見通しを1.8〜2.8%に据え置き、「下半期に景気が縮小しない限り1.5%成長は確保できる」との認識を示しました。
USMCAについては、7月に行われた第3ラウンドで鉄鋼・アルミやアジアからの輸入代替といった論点で前進があったとされ、第4ラウンドは9月初旬に予定されています。8月は交渉の谷間となるため、ペソにとっては当面、材料が一段落する形です。(参考:メキシコと米国の関係)
Banxico(メキシコ中銀)の政策金利は6.50%、インフレも目標圏内に収まっています。成長が戻り、物価が落ち着き、金利は高いまま――ファンダメンタルズだけを見れば、今週のペソは三通貨のなかで最も良い材料に恵まれていました。それでもペソ円が下げたのは、やはり円側の力です。(参考:Banxicoの政策金利)
中(リラ):47リラ台へ、原油安はディスインフレの追い風
リラの対ドルは47.5リラ前後と、今週も淡々と水準を切り下げました。管理された減価の範囲内で、驚きのない動きです。TCMB(トルコ中央銀行)は先週の会合で政策金利37%を4会合連続で据え置いたばかりで、今週は新たな政策イベントもありませんでした。
ただし、今週の原油下落はトルコにとって朗報です。純粋なエネルギー輸入国であるトルコにとって、原油高はインフレの直接的な上振れ要因でした。TCMBは7月にインフレが反転する兆しを警戒していましたが、中東が緩和方向に向かえば、脅かされていたディスインフレの道筋に、いくらか余裕が生まれます。来週発表される7月のインフレ統計が、その最初の答え合わせになります。(参考:トルコの地政学リスク)
リラ円は3.3円前後と、こちらも円高に押される展開でした。もっともリラの場合、対ドルの減価が構造的に続いているため、円高局面ではその両方が重なりやすい点には注意が必要です。(参考:トルコの実質金利とスワップ)
スワップ・キャリーのメモ:日本の金利上昇という新しい論点
今週いちばん、長期保有派に考えてほしいのが日銀の見通しです。
スワップの原資は、新興国と日本の金利差です。この差が大きいほど、受け取れるスワップは厚くなります。これまで日本の金利がほぼゼロだったからこそ、南アフリカの7.00%やメキシコの6.50%との差がまるごと収益になっていました。
ところが日銀の政策金利は、6月の利上げで1.0%に達しています。1995年以来の水準です。しかも日銀は物価が2%を明確に上回るとの見方を示し、市場では来年前半に1.50%程度という観測が広がっています。仮にそこまで上がれば、日本側の金利だけで、金利差は1.5%分削られる計算になります。南アフリカが7.00%で据え置きを続けるなら、差は縮む一方です。
ここで混同したくないのが、二つの金利差の違いです。新興国と日本の金利差はスワップ収入を決め、新興国と米国の金利差は対ドルの為替レートを動かします。今週のFOMCと日銀は、この二つの経路にそれぞれ別の形で影響が出ました。米国が高金利を維持することは新興国通貨の対ドルには重し、日本の利上げ観測はスワップの先細り要因。長期でスワップを狙う立場からは、後者の変化を静かに見ておきたいところです。(スワップの仕組みそのものはランド円スワップポイントの基本で解説しています)
加えて、日本の金利が上がると、低金利の円を借りて高金利通貨を買う「円キャリー取引」の妙味も薄れます。過去の暴落局面では、このキャリーの巻き戻しが下げを加速させてきました。すぐに何かが起きるという話ではありませんが、地合いの変化として頭の片隅に置いておく価値はあります。
来週の注目ポイント
- 次の介入弾があるか:157円台まで押し戻されたドル円が再び163円方向へ戻すなら、追加介入の警戒が一気に高まります。8月3日の日銀当座預金の数字も、市場の関心事です
- 中東情勢の持続性:サウジアラビアの有志連合構想が具体化して緊張緩和が続くのか、それとも再燃するのか。原油が落ち着けば、南アフリカのインフレとトルコのディスインフレの双方に追い風です
- トルコの7月インフレ統計:中東の原油高がどこまで物価に転嫁されたか。TCMBが警戒していた「7月の反転」が現実になるかどうかの答え合わせです
- 南アフリカの経済指標:原油安でインフレ圧力が和らげば、9月のSARB会合に向けた見方も変わってきます。据え置き継続なのか、それとも利上げ論が再燃するのか
- 8月のペソは材料の谷間:USMCA第4ラウンドは9月初旬。当面は米国側の指標とドルの地合いが、ペソの主な変数になりそうです
結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?
今週は、三通貨とも対円では下げましたが、その下落は通貨側の弱さによるものではありませんでした。ランドは原油安で持ち直し、ペソは好調なGDPに支えられ、リラも想定内の動きでした。それでも円建ての評価が減ったのは、3か月ぶりの介入で円が急伸したからです。
先週は「対ドルで急落したランドが、円安のおかげで円建てでは無傷に見えた」週でした。今週はその真逆です。二週続けて、クロス円は通貨の実力をそのまま映さないということを、これ以上ないほど分かりやすく見せてくれました。値動きを見たときには、「これは通貨側の話か、円側の話か」を切り分ける。この習慣が、遠回りのようでいちばん確実だと思います。
そしてもう一つ、今週から意識しておきたいのが日本の金利です。日銀が1.0%まで来て、さらに上を見ている。高金利通貨のスワップは「相手国の金利の高さ」だけでなく「日本の金利の低さ」に支えられてきました。その前提が、静かに動き始めています。来週以降の日銀関連のニュースは、これまでとは少し違う目線で追ってみてください。

