今週も、ランド(ZAR)・ペソ(MXN)・リラ(TRY)の三通貨を横並びで振り返ります。共通の逆風は、先週からさらに強まった中東情勢でした。米軍がイランへ追加攻撃を行い、ホルムズ海峡の封鎖を再導入したことで、いったん成立していた暫定的な和平合意は事実上崩れ、原油価格は週を通じて上昇。エネルギーを輸入に頼る日本の重しとなり、ドル円は約40年ぶりの円安圏(一時162円台後半)で推移しました。

面白いのは、この「原油高」という一つのニュースが、通貨ごとにまったく違う顔を見せた点です。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ) の切り口で並べると、同じ逆風でも効き方がこれほど違うのか、というのがよく分かる一週間でした。順に見ていきます。

今週の三通貨(7/13〜17)

通貨ペア週末終値の目安対ドルの水準今週の主役
ランド円(ZAR/JPY)9.8円前後16.4〜16.5ランド安全資産ドル買いとSARB会合待ち
ペソ円(MXN/JPY)9.2〜9.3円17.4〜17.6ペソUSMCA第3ラウンドとディスインフレ
リラ円(TRY/JPY)3.44円前後47リラ台原油高の直撃とTCMBの引き締め
※水準は週間のおおよそのレンジです。確定した日足の終値は、公開前にご利用のレート元でご確認ください。

対円では、三通貨とも大きくは崩れませんでした。ただし前提として、ドル円が162円台という高値圏(円安)にあったことが、各通貨の対ドルの軟調さを覆い隠している面があります。クロス円は「対ドルの通貨の強さ」と「円安による押し上げ」の掛け算なので、今週はとくに、この二つを分けて眺めておきたいところです。

円側の共通項:中東緊迫・原油高と、根強い介入警戒

先々週の和平合意で下げていた原油は、先週から今週にかけて完全に流れが反転しました。米軍によるイランへの追加攻撃と、ホルムズ海峡封鎖の再導入で地政学リスクが再燃し、原油価格は続伸。エネルギー輸入国である日本にとっては逆風で、ドル円は約40年ぶりの円安水準に張りついたままでした。

週の半ばには、円がいったん買い戻される場面もありました。米国の消費者物価(CPI)が市場の想定より鈍化したことに加え、日本当局による円買い介入への警戒が改めて意識されたためです。ただ、この戻りは短命に終わり、週末にかけてドル円は再び162円台後半へ。7月に入って何度か見られた円の急伸が当局の介入によるものかどうかは、今月後半に公表される介入実績データを待つ、という神経質な地合いが続いています。

この「原油高による円安圧力」と「介入警戒による円高巻き戻し」の綱引きは、先週に続いて今週も三通貨すべての“土台”として効きました。以下の各通貨の対ドルの動きに、この円側の力を重ねて読むのがポイントです。

外(ランド):安全資産ドル買いに押され、7/23会合待ち

ランドの対ドルは、1ドル=16.4〜16.5ランドと、先週よりやや軟調に推移しました。週半ばに16.3台まで戻す場面もありましたが、週末17日には16.5近辺と、1週間ぶりの弱さをつけています。この1カ月では小幅安の水準です。

軟調の主因は、ランド固有の悪材料というより、中東緊迫を受けた安全資産としてのドル買いでした。地政学リスクが高まると、投資家はまず基軸通貨のドルへ逃げ込みます。その裏返しで、新興国通貨であるランドが相対的に売られやすくなった、という構図です。原油高そのものは、資源輸出国でありながら原油は輸入に頼る南アフリカにとって評価の分かれる材料ですが、今週は「ドル全面高」の側面のほうが強く出ました。(参考:南アフリカランド(ZAR)とは?

金融政策では、いよいよ7月23日にSARB(南アフリカ準備銀行)の会合が控えています。クガニャゴ総裁は、インフレ期待が中銀の目標である3%を上回って推移している点を指摘し、追加の引き締めを検討しうるとの姿勢を維持しています。原油高がインフレ懸念を再び刺激するなかでの会合だけに、利上げに動くのか、高金利維持にとどめるのか、市場の関心は高まっています。(参考:SARB政策金利ガイド

隣(ペソ):中東の蚊帳の外、焦点は7/20のUSMCA第3ラウンド

ペソの対ドルは17.4〜17.6ペソと、週を通じて狭いレンジで底堅く推移しました。中東情勢という今週最大のテーマから、地理的にも構造的にも比較的「蚊帳の外」に立てたことが、ペソの安定につながっています。ここが、原油高に振り回されたランドやリラとの大きな違いです。

代わりにペソの焦点は、来週に迫ったUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の第3回二国間交渉でした。米国とメキシコは7月20日の週にメキシコシティで技術交渉を行う予定で、内容は専門的ながら、自動車産業を中心に影響は小さくありません。報じられているところでは、米国は自動車の原産地規則(域内で作るべき部品の比率)を82%へ引き上げ、さらに車の価値の半分を米国内で生産するよう求めているとされます。一方のメキシコは、鉄鋼・アルミ・自動車にかかる関税の緩和を働きかけている、という構図です。(参考:メキシコと米国の関係

金融面は、むしろペソの追い風でした。6月の消費者物価上昇率は前年同月比3.37%と、5月の3.94%から鈍化し、2020年12月以来の低水準。中銀(Banxico)の目標レンジ内に収まり、市場予想も下回りました。Banxicoは6月に政策金利を6.50%で据え置き、当面は同水準を維持する姿勢を示しています。ディスインフレが進みつつも高金利は保たれる、という組み合わせが、ペソのキャリー妙味を支えました。「対米交渉の不透明感」と「良好な物価・金利環境」――この綱引きが、今週のペソを狭いレンジに収めた背景です。(参考:Banxicoの政策金利

中(リラ):原油高の直撃と、TCMBの「ステルス引き締め」

三通貨のなかで、今週の原油高をもっとも重く受け止めたのがリラです。対ドルは節目の47を超え、週末17日には47.1リラ台まで下落しました。この1カ月で約1.6%、この1年では約17%の下落と、管理された減価が着実に進んでいます。

背景は明快です。トルコは純粋なエネルギー輸入国であり、原油高はそのままインフレの上振れ要因になります。6月の消費者物価は前年同月比32.11%と改善傾向自体は続いていますが、中東の戦争によるエネルギー価格の上昇が、ディスインフレの道筋を脅かす構図になってきました。中銀は2026年末のインフレを26%と見込んでおり、これは年初(2月)時点の見通し(15〜21%)を大きく上回ります。(参考:トルコの地政学リスク

注目したいのは、TCMB(トルコ中央銀行)の対応です。政策金利は37%で2会合連続の据え置きですが、紛争が始まって以降、より高い40%の金利で資金を供給することで、実質的に金融を引き締めています。表向きの政策金利は動かさずに、市場に出回るお金を絞って通貨を守る――いわば「ステルス引き締め」です。名目金利が高いだけでなく、その裏でこうした微調整が続いている点は、リラの実質金利(≒スワップの原資)を読むうえで見落とせません。(参考:トルコの実質金利とスワップ

スワップ・キャリーのメモ

三通貨はいずれも高金利通貨ですが、今週の材料を通すと、その「質」の違いがくっきりします。

ランドはSARBが7.00%を維持し、7/23会合で利上げの可能性も残るため、スワップの下支えは厚めです。ペソはBanxicoが6.50%で据え置き、ディスインフレが進むなかでも当面は高金利を保つ姿勢で、キャリーの安定感があります。リラは37%(実質40%供給)と突出しますが、その裏で管理された減価が続くため、スワップ益と為替差損を合わせた“手取り”で見る視点が欠かせません。とくに今週のように原油高でリラ安が進む局面では、この点がより重要になります。(スワップの仕組みはランド円スワップポイントの基本で解説しています)

共通のリスクは、やはり円側です。介入警戒で急な円高に巻き込まれると、日々のスワップ益を上回る為替の目減りが出ることがあります。(参考:スワップ狙いが崩れるとき

来週の注目ポイント

結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?

今週は、「中東緊迫 → 原油高」という一つの逆風が、三通貨でまったく違う顔を見せた一週間でした。ランドは安全資産ドル買いでやや軟調、ペソは中東の蚊帳の外で底堅く、リラは原油高を正面から浴びて節目の47台へ。同じニュースでも、資源国か・対米連動か・エネルギー輸入国かで、効き方は正反対にもなります。

来週にかけては、二段構えの視点が役立ちます。まず円側――中東情勢と介入警戒が、クロス円全体を上下に揺らします。そのうえで通貨側――7/20のUSMCA第3ラウンド(ペソ)と7/23のSARB会合(ランド)という、二つの政策イベントが週の主役になりそうです。リラは大きなイベントこそないものの、原油高とTCMBの引き締めのせめぎ合いのなかで、淡々と水準を切り下げる展開が続く見通しです。

「いまこのペアを動かしているのは、中東・原油という共通要因か、それとも各国固有の事情か」。この問いを持って三通貨を並べて眺めると、来週のニュースがぐっと読みやすくなるはずです。