今週は、ランド(ZAR)・ペソ(MXN)・リラ(TRY)の三通貨を横並びで振り返ります。共通していたのは「円側の事情」でした。中東情勢の再燃で原油が上昇し、ドル円は一時162円台半ばと約40年ぶりの円安圏へ。週末金曜には介入警戒から161円台前半へ急速に戻す、荒い一週間となりました。

一方で、通貨そのものを動かした材料は三者三様です。外(ランド=資源)/隣(ペソ=対米連動)/中(リラ=国内政治とインフレ) という切り口で並べると、同じ「高金利通貨」でも今週どこを見ればよかったのかがはっきりします。順番に整理していきます。

今週の三通貨(7/6〜10)

通貨ペア週末終値の目安対ドルの水準今週の主役
ランド円(ZAR/JPY)9.8〜9.9円16.3〜16.5ランド資源市況とSARBの利上げ警戒
ペソ円(MXN/JPY)9.2〜9.3円17.5ペソ前後USMCA年次レビューとBanxico
リラ円(TRY/JPY)3.46〜3.47円46.7〜46.9リラディスインフレ鈍化とTCMB据え置き

三通貨とも、対円では大崩れせずに踏みとどまりました。ただし前述のとおり、その「底堅さ」の少なくない部分は、ドル円が161〜162円台の高値圏にあった円安要因によるものです。クロス円は「対ドルの通貨の強さ」と「円安による押し上げ」の掛け算で決まるので、この二つは分けて眺めておきたいところです。

円側の共通項:中東再燃と介入警戒

先々週の米イラン和平合意で急落した原油は、今週になって流れが反転しました。中東情勢が再び緊張し、原油価格が上昇。エネルギーを輸入に頼る日本にとっては重しとなり、ドル円は一時162円台半ばと約40年ぶりの円安水準をつけています。

ところが週末金曜には、ドル円は161円台前半まで急速に戻しました。7月2日に一度見られた円の急伸に続き、日本当局による円買い介入への警戒が根強く、160円が視野に入る局面では「これ以上の円安はどこかで止められるかもしれない」という思惑が上値を抑えた格好です。今月後半に公表される介入実績データを待つ、という神経質な地合いが続いています。

この円側の綱引き――中東再燃による円安圧力と、介入警戒による円高巻き戻し――が、今週はランド・ペソ・リラのすべてに共通して効きました。以下で見る各通貨の「対ドルの動き」に、この円要因を重ね合わせて読むのがポイントです。

外(ランド):資源国通貨としての地合い

ランドの対ドルは、1ドル=16.3〜16.5ランドと、5月以来続く狭いレンジのなかで底堅く推移しました。金曜には16.3台前半までランドがやや強含む場面もあり、この1カ月では小幅安、この1年では対ドルで約9%高という位置取りです。

今週の中東再燃による原油高は、ランドにとっては評価の分かれる材料です。南アフリカは資源輸出国であると同時に、原油は輸入に頼っています。原油高はインフレ圧力を通じてランドの重しになりうる一方、資源国通貨としてはコモディティ市況全体の地合いにも左右されます。(参考:南アフリカランド(ZAR)とは?

金融政策では、SARB(南アフリカ準備銀行)のクガニャゴ総裁が引き続き警戒姿勢を崩していません。総裁は、インフレ期待が中銀の目標である3%を上回って推移している点を指摘し、5月の利上げ(政策金利7.00%)を正当化するとともに、追加の引き締めが必要になりうると含みを持たせています。次回SARB会合は7月23日。原油高がインフレ懸念を再び刺激するなかで、この会合に向けた地ならしが当面のランドの底流になりそうです。(参考:SARB政策金利ガイド

隣(ペソ):USMCA年次レビューとBanxicoの利下げ観測

ペソの対ドルは17.5ペソ前後と、直近レンジ(17.13〜18.83)の強い側で推移しました。ドル安の追い風を受けつつ、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を巡る不透明感がそれを打ち消す、拮抗した一週間です。

焦点のUSMCAは、米国が協定を丸ごと更新する形は見送り、年次レビュー方式へ移行しました。ただし協定自体は2036年まで有効で、最初の技術会合は7月20日に設定されています。市場は当初こそ身構えたものの、エブラルド経済相が「メキシコからの対米輸出の8割超は引き続き無関税」と説明し、シェインバウム大統領も協定の16年延長を求める書簡を送るなど、政府が火消しに動いたことで「管理可能」との受け止めに落ち着きました。(参考:メキシコと米国の関係

金融面では、Banxico(メキシコ中銀)が政策金利を6.50%で据え置いています。もっとも、直近のインフレが予想を上回るペースで鈍化し数カ月ぶりの低水準に達したことで、成長下支えのために利下げを再開するのではないかとの観測が強まりました。タカ派に傾いた米連邦準備制度との金利差が縮めば、ペソのキャリー妙味は削がれます。この「対米貿易の不透明感」と「金利差の行方」という、まさに”隣”の通貨らしい二つの綱引きが、今週のペソを一方向に走らせませんでした。(参考:Banxicoの政策金利

中(リラ):ディスインフレの鈍化とTCMB据え置き

リラの対ドルは、週を通じて46.7〜46.9リラのごく狭いレンジで推移しました。管理された緩やかな減価が続いており、年初来では対ドルで約7%の下落です。派手な急落こそないものの、じわじわと水準を切り下げていく”いつものリラ”の動きでした。

インフレは改善が続いていますが、そのペースには鈍りが見えます。6月の消費者物価は前年同月比32.11%と、5月の32.61%からわずかに低下し3月以来の低水準となったものの、下げ幅は小さく、ディスインフレの勢いは鈍化しています。背景には、今週まさに効いた中東の紛争によるエネルギー価格の上昇があります。(参考:トルコの地政学リスク

TCMB(トルコ中央銀行)は、政策金利を37%で3会合連続の据え置きとしています。中銀は、中東情勢に伴うエネルギー価格の上昇がインフレの基調を押し上げていると指摘し、今年に入って利下げ局面を打ち切った判断を裏づける形です。実質金利(政策金利−インフレ率)はプラス圏を保っており、この高い名目金利が、管理された減価と引き換えにキャリーの原資となっています。(参考:トルコの実質金利とスワップ

スワップ・キャリーのメモ

三通貨はいずれも高金利通貨で、対円で保有すればスワップ(金利差収入)が日々積み上がります。ただし、その性格は今週の材料からも少しずつ違います。

ランドはSARBが7.00%と利上げ警戒を維持しており、スワップの下支えは厚めです。ペソはBanxicoが6.50%と高水準ながら、利下げ再開観測が出てきた分、金利差の先細りには目配りが要ります。リラは37%と突出した高金利ですが、その裏で管理された減価が続くため、スワップ益と為替差損を合わせた”手取り”で見る視点が欠かせません。(スワップの仕組みはランド円スワップポイントの基本で解説しています)

いずれの通貨も、円側の介入警戒で急な円高に巻き込まれると、スワップ益を上回る為替の目減りが出ることがあります。この点は共通のリスクです。(参考:スワップ狙いが崩れるとき

来週の注目ポイント

結局、来週の新興国通貨をどう見ればいい?

今週の三通貨は、「中東再燃 → 原油高 → 円安、週末は介入警戒で反転」という円側の共通項の上で、それぞれのクラスター事情によって明暗が分かれた一週間でした。ランドは資源とSARB、ペソはUSMCAとBanxico、リラはディスインフレとTCMB――同じ高金利通貨でも、見るべき場所はまるで違います。

来週にかけて意識したいのは、二段構えの視点です。まず円側――介入警戒と中東情勢が、クロス円全体を上下に揺らします。そのうえで通貨側――USMCA技術会合(7/20)とSARB会合(7/23)という、ペソとランドの政策イベントが控えています。リラは大きなイベントこそないものの、管理された減価が淡々と続く見通しです。

「今このペアを動かしているのは、円側の力か、それとも通貨側の力か」。この問いを持って三通貨を並べて眺めると、来週のニュースがぐっと読みやすくなるはずです。