高金利で人気のランド円。でも、その歴史をさかのぼると、何度も「暴落」を繰り返してきた通貨でもあります。「毎日スワップがもらえる」という魅力の裏で、過去には保有者を青ざめさせる急落が、忘れたころに何度もやってきました。
この記事は、ランドが過去にどんな暴落を経験してきたのかを振り返るものです。なぜランド円が急落するのか、その仕組みそのものはランド円はなぜ急落するのかで解説しましたが、今回はその「実例編」。過去の暴落を知っておくと、次に同じような場面が来たとき、慌てず備えられるようになります。
まず大前提:ランド円は「長期で下がってきた」通貨
個々の暴落を見る前に、押さえておきたい大きな絵があります。それは、ランド円が数十年単位で、ゆるやかに水準を下げ続けてきた通貨だという事実です。
たとえば2000年代後半には15〜17円前後だったランド円は、2026年6月時点では、おおむね9円台後半。長い目で見れば、確実に値を切り下げてきました。理由はシンプルで、南アフリカは日本よりインフレ率が高く、通貨の価値が相対的に目減りしやすいからです。高い金利(スワップ)は、その目減りの裏返しでもあります。
つまりランド円は、「何もなくても長期ではじり安になりやすい」土台の上に立っています。そして、そのなだらかな下り坂の途中に、これから見ていく「急落」が突然差し込まれる。この二段構えを頭に入れておくと、暴落の歴史がぐっと理解しやすくなります。
暴落の実例を振り返る
それでは、ランドが経験してきた主な暴落を、時代を追って見ていきます。
2008年:リーマンショックと「円キャリー巻き戻し」
最初の大きな山が、2008年の世界金融危機(リーマンショック)です。
このときランド円は、1年ほどで水準がほぼ半分になる場面もあるほど急落しました。なぜこれほど激しかったのか。ここに、ランド円という通貨ペアの「弱点」が凝縮されています。世界的な危機が起きると、投資家はリスクの高い新興国通貨を真っ先に手放します。ランドが売られる。それと同時に、当時安全資産の代表格だった円が買われました。「ランドが下がる」と「円が上がる」が同時に起きるため、ランド円は二重に押し下げられたのです。
とりわけ、低金利の円を借りて高金利のランドを買う「円キャリー取引」が巻き戻されると、その解消売りがランド円をさらに加速度的に突き落とします。高スワップを狙った取引が、危機のときには逆回転して牙をむく。2008年は、それが最も鮮明に出た年でした。

2015〜2016年:中国ショックと国内政治の混乱
次の試練は、2015年から2016年にかけて、波状的にやってきました。
きっかけの一つは中国です。2015年なかば、中国が自国通貨を切り下げたことを引き金に、資源国通貨であるランドにも売りが波及。ランドは対ドルで半年あまりのあいだに2割を超えて下落しました。南アフリカの最大の貿易相手国である中国が揺れると、ランドも揺れる――資源国通貨の宿命が表れた局面です。
そこへ国内の政治要因が追い打ちをかけます。2015年12月、当時のズマ大統領が財務相を突然更迭した「ネネゲート」と呼ばれる事件で、ランドへの信認が一気に揺らぎました。市場は混乱し、対ドルの過去最安値を更新する事態となりました。ランド円そのものも、2016年初めには6円台前半まで沈み、これがのちのコロナショックまで史上最安値であり続けました。さらに翌2016年6月には、イギリスのEU離脱(ブレグジット)が決まった日に、ランドが1日で8%以上も急落しています。外的ショックと国内政治が、立て続けにランドを痛めつけた時期でした。
2020年:コロナショック
そして記憶に新しいのが、2020年のコロナショックです。
新型コロナの世界的な感染拡大で市場がパニックに陥るなか、ランドは2020年の初めからの3か月で、対ドルで2割以上も下落しました。ランド円も、6円を割り込み、5円台後半という当時としての史上最安値まで売り込まれています。2008年と同じく、「リスクオフでランドが売られ、同時に円が買われる」という二重苦の構図が、ここでも働きました。

このとき南アフリカの中央銀行SARBは、景気を支えるために金利を大きく引き下げています。利下げは、保有者にとっては「受け取れるスワップが減る」ことを意味します。為替差損で大きくやられたうえに、頼みのスワップまで細る。暴落局面では、こうした追い打ちも起こり得るということです。
じつは筆者自身も、このときランド円のポジションを持っていました。「さすがにもう底だろう」と、当時の過去最安値あたりにロングの指値を置いていたのですが、相場はその指値を当たり前のように飲み込んで、さらにずるずると下がり続けました。結局、耐えきれずに損切り。「ここが底」と思った場所が、まったく底ではなかったわけです。暴落のさなかでは、どこが底なのかは誰にも分かりません。落ちてくるナイフをつかもうとすると、たいてい手を切ります。この感覚は、数字を眺めているだけではなかなか掴めないものだと思います。
過去の暴落に共通する「3つの引き金」
こうして並べてみると、ランドの暴落にはいくつかの共通したパターンが見えてきます。引き金は、大きく3つに整理できます。
1つ目は、世界全体のリスクオフです。リーマンショックやコロナショックのように、世界の投資家が一斉にリスクを避けるムードになると、新興国通貨であるランドは真っ先に売られます。原因が南アフリカと関係なくても、関係なく巻き込まれるのが新興国通貨の弱いところです。
2つ目は、南アフリカ国内の政治・財政の問題です。ネネゲートのような政変に加え、近年では国営電力会社の設備老朽化による計画停電(ロードシェディング)が成長を阻害し、慢性的なランド売りの口実になってきました。政権の動きや財政・インフラへの不安が高まると、海外マネーが逃げ出してランドを直撃します。これは南アフリカ固有のリスクで、ニュースを見ていないと不意打ちを食らいます。
3つ目は、資源価格と中国です。ランドは資源国通貨なので、金やプラチナの価格、そして最大の輸出先である中国の景気が傾くと、それだけでランド安に振れてしまいます。
ランド円の暴落が「特にきつい」理由
最後に強調しておきたいのが、ランド「円」ならではの注意点です。
過去の大きな暴落では、ランドが下がるだけでなく、安全資産とされた円が買われ、ランド円は二重に押し下げられました。2008年や2020年の下落が対ドル以上にきつくなったのは、この円高が重なったからです。
ただし、この「有事の円買い」は、近年では以前ほど当てになりません。日本の金利が低いまま他国が利上げを進めた結果、リスクオフでもかえって円安に振れる場面が増えました。原油高が絡む局面では、資源を輸入に頼る日本にとって、円はむしろ売られやすくもなります。
つまりランド円の暴落では、「円側」がもう一つの変数になります。円高が重なって下落が増幅されることもあれば、逆に円安がいくらか下支えになることもある。どちらに転ぶかは、そのときの構図しだいです。だからこそ、ランド側の動き(対ドルの値動き)だけでなく、円側がどう動くかにも目を配っておく必要があるのです。
歴史から何を学ぶか
過去の暴落を振り返って見えてくる教訓は、それほど複雑ではありません。
ランド円は、長期ではじり安になりやすく、しかも数年に一度は大きな暴落に見舞われてきた通貨です。コツコツ積み上げたスワップは、こうした暴落の数日で簡単に消し飛びます。実際、毎日受け取るスワップと、暴落時の為替差損は、まったく釣り合わない大きさです。このあたりはスワップポイントとは何かでも触れたとおりです。
だからこそ大事なのは、「暴落は必ずまた来る」という前提で資金を組むことです。レバレッジをかけすぎない、急落に耐えられる余裕を残す、一度に勝負しない。派手にスワップを狙うより、生き残ることを優先する。ランドの暴落の歴史は、そのことを繰り返し教えてくれます。
ランドという通貨の全体像をあらためて押さえたい方は、南アフリカランドとは?もあわせてどうぞ。魅力と弱さの両面を知ったうえで付き合うことが、この通貨と長く向き合うための出発点になります。
まとめ
ランドは、2008年のリーマンショック、2015〜2016年の中国ショックと国内政治の混乱、2020年のコロナショックと、繰り返し大きな暴落を経験してきました。引き金は「世界のリスクオフ」「国内の政治・財政」「資源価格と中国」の3つに整理でき、しかもランド円の場合は、円の動きしだいで下落がさらに増幅されることもあります。
高金利は確かに魅力ですが、その通貨が歩んできた道のりは、決して平坦ではありませんでした。暴落の歴史を知ることは、次の暴落をこわがるためではなく、来たときに慌てず立っていられるための備えになります。
